『月刊ドットワールドTV』#8 ミャンマー大地震の発生から10日
被災地のいまと、助け合う地元の人々の姿から現地の社会を考える

  • 2025/4/7

 ドットワールドと「8bitNews」のコラボレーションによって2024年9月にスタートした新クロスメディア番組『月刊ドットワールドTV』が8回目のライブ配信を行いました。今回は、3月28日にミャンマーでマグニチュード7.7の大地震が発生したことを受けて緊急配信に踏み切ったもので、ナビゲーターを務めるドットワールド編集長の玉懸光枝がNPO法人日本ミャンマーカルチャー(JMCC)所長のマヘーマーさんを東京のスタジオに招くとともに、ミャンマー子ども支援団体ソシア代表の甲野綾子さんともオンラインでつなぎ、8bitNewsの構二葵さんとともに伝えました。

現地の協力者を通じて支援を届ける

  8回目となる番組は、「ミャンマー大地震から10日 ~被災地のいま 助け合う人々~」と題して、発災から10日めにあたる4月6日の日本時間19時から8bitNews上で緊急配信されました。

 3月28日の日本時間15時20分ごろに発生した大地震では、隣国タイの首都バンコクで高層ビルが崩落する瞬間をとらえたセンセーショナルな映像がSNSなどでも発災直後から数多く発信されたのに対し、震源地ミャンマー中部の状況は、インターネットの寸断や停電などが原因で情報がなかなか伝わってきませんでした。ドットワールドでも、震災の翌日と翌々日にいちはやく大地震について報じたタイの英字紙とミャンマーの独立系メディアの社説を「報道を読む」として紹介(「ミャンマーで巨大地震「支援は軍ではなく国民へ」」(2025年3月31日付)しましたが、それ以降も時間が経過するにつれて甚大な被害の実態が徐々に明らかになりつつあります。

 これを受け、8回目のゲストトーク「ドットワールドCross」では、長年にわたり日本とミャンマーをつなぐ活動に尽力している冒頭のお二方をスタジオとオンラインのゲストに招き、被災地の現状やミャンマー社会について対談しました。

ミャンマー中央を縦にのびる断層がずれ、第二の都市マンダレー、首都ネピドーなどの主要都市、および幹線道路沿いの大きな街が壊滅的な被害を受けた。最大都市ヤンゴンからネピドーを通ってマンダレーへ北上するハイエウェーが寸断しているため、支援団体は旧道から迂回しなければならず、物資輸送に時間がかかっている。震源地はザガイン管区とマンダレー管区が隣接する位置(甲野さん作成)

 マヘーマーさんは、今回の震源地に近い中部の町、メッティーラの出身で、地元の僧院で英語と日本語を学んだ後、結婚を機に1996年に来日。JMCCでミャンマー語教室や日本語教室を開催するなど、両国をつなぐ活動を続けています。これまでもサイクロンの被災地支援などを行ってきたマヘーマーさんは、今回、フェイスブックを通じて地震発生の一報を知ったといいます。ヤンゴンの親戚とはすぐに連絡がついた一方、故郷メッティーラや、そこから車で2時間ほどの古都マンダレーに住む親戚とは地震から3日後にようやく連絡が取れたと振り返るマヘーマーさんは、今回、いちはやく日本で寄付を募り、現地の協力者らの力を借りて、地震から5日目の4月2日よりマンダレーとザガインに支援を届けています。

 被災地では現在、気温が40℃近くまで上がる中、多くの人々が自宅の倒壊を恐れて路上で過ごしていると言います。マヘーマーさんは、「被災地では、上下水から食料までライフラインがすべて途絶えている」と指摘。ヤンゴン市内の水工場からトラック一杯の飲料水を届けることから支援を始めたと話しました。また、火災が発生し700世帯が焼け出されたマンダレーでは、炊き出しも行ったといいます。

 一方、甲野さんは学生時代にミャンマー子ども支援団体ソシアを設立。以来、25年以上、ミャンマーの子ども支援を続ける傍ら、実務家、研究者として開発援助やNPOに携わっています。

 ソシアは、現地に住むミャンマー人の友人たちを通じて活動しており、日本側も現地側もボランティアベースだといいます。甲野さんは、「今回のような大規模な自然災害が起きた場合は、まず募金を安心して託すことができる団体の検討から始める」と話し、「今回は災害救援分野のボランティアグループがいちはやく出動していると聞き、支援内容や活動先の選定方法について確認したうえで連携を決め、募金の呼びかけを始めた」と述べました。さらに、「基本的には最前線にいる彼らが今、必要だと判断することを尊重し、自分たちは日本の寄付者との間に立って支援を進めている」と語りました。

「助けさせてくれる」ことに感謝する人々

 近年、ミャンマーに関する報道は、2021年2月のクーデター直後に比べると減少傾向にあります。今回の大地震を受けてミャンマーへの関心が再び高まりつつある一方、「支援をしても被災地に届かないのではないか」と懸念する声も少なくありません。

 番組では、甲野さんがドットワールドに寄稿した「ミャンマー大地震 地元ボランティアの声を通じて見るミャンマー社会」(2025年4月6日付)を踏まえ、日本からの寄付を被災地に届けるために現地で活動するボランティアの存在や、ミャンマー社会の特徴についても聞きました。

 記事を執筆した理由について、甲野さんは「支援しても無駄になるのではないか、どこに寄付したらいいか分からない、という書き込みをインターネット上でしばしば目にする」と述べ、「大切に寄付を預かり活動につなげている日本人が多くいること、そしてその支援を被災者に届けようと奔走している地元の人々の思いを“現地からの声”として伝えたかった」と話しました。

 そのうえで、「ソシアだけでなく、JMCCや他の団体の活動の様子を見ていると、支援が確かに現地に届けられていることを実感する」と述べました。

8割の建物が倒壊したザガイン市街(甲野さん提供)

 また、時に自分自身も被災しながら他者のためにボランティアに力を尽くし、私財を投じているミャンマーの人々の思想について玉懸が尋ねると、マヘーマーさんは、「ミャンマー人にとって、困っている人を助けるのは当たり前のこと」「自分もいつか困った時に誰かに助けてもらうかもしれないのだからお互い様」「功徳を積むと自分に返ってくるという仏教の思想がある」と指摘。「助けてあげる、ではなく、助けさせてくれてありがとう、という姿勢」だと話しました。

 これを受け、甲野さんも「ソシアのメンバーも皆、ミャンマーから多くの恩を受け取っており、恩返しが終わらない」「今回、寄付してくれた人たちからも同じようなメッセージが多く寄せられた」と紹介。「日本ではコンビニエンスストアや介護現場などでミャンマー人の若者たちが活躍している。彼らは日本社会を一緒に盛り立てていく仲間」だと話しました。

緊迫した被災地 「長期的な関心を」

 とはいえ、被災地の状況は緊迫しています。マヘーマーさんは、「地震直後は、倒壊した建物の中に人の姿が見えても瓦礫を取り除く重機がなく、人々が素手でレンガを一つずつ動かすしかない様子がSNSに流れてきて、胸がつぶれる思いだった」と振り返り、「救出が遅れて多くの人が命を落としたうえ、救出されても病院も医薬品もなく、結局、亡くなる人も多い」と指摘します。

 さらに、日本の被災地とは異なる道路にできた割れ目から地表に出て来たコブラや毒蛇に噛まれたり、デング熱やマラリアが広まったりしているほか、空き家を狙う泥棒や強盗の被害も増えつつあり、医療面や治安面の懸念も高まっているとも訴えました。

 番組では、この日の朝、玉懸がソシアの支援を被災地に届けているボランティアの一人の男性にオンラインでインタビューした映像も紹介。メンバーが全員、別に本業があり、今回のような緊急時に集まり支援にあたっていることや、ピョーブエ、ザガイン、アマラプラ、マンダレーの4カ所で、重機を活用しながら救出活動や建物の解体、給水などを行っている様子を聞きました。また、被災地の現状について、男性は、「直後は生活インフラがすべて破壊されていたが、10日が経過してマンダレーでは電気が復旧している」と指摘。「電気がまだ戻らないザガインでは、ソーラー発電機を届けて浄水器を動かしている」と話しました。さらに、今後の支援については、昨年8月に洪水に見舞われた地域に対して半年かけて救援から建物の解体、瓦礫の撤去、建物の再建などを行っていることを例に挙げつつ、「今回の被災地に対しても、時間の経過とともに支援ニーズが変わっていくだろう」と述べました。

 続いて、ソシアのパートナー団体が発災から3日めにマンダレーからザガインに支援に向かう車の中から撮影した映像も紹介しました。両市の間には川が流れており、ザガインに入るためには橋を渡る必要がありますが、甲野さんは「川に架かる2本の橋のうち、1本が落橋し、残る1本も最初の2日間は通行できなかったうえ、消防署も被災し、救えなかった命も多かった」と話しました。

マンダレーの被災者たちへの支援の様子(マヘーマ―さん提供)

 最後に、今後について、甲野さんは「道路が寸断され、空港も使用できないなか、厳しい状況が続くことが予想される。日本から長期的に関心を寄せることが重要」「支援が被災者に届かないのではと懸念するのではなく、どうすれば届けられるかを考えてほしい」と発言。「寄付をしたら、その後の報告にも関心を寄せてほしい」「一人一人が一歩を踏み出せば、それが広がり、ミャンマーの被災者に届く」と呼びかけました。

 また、マヘーマーさんは「救出活動や飲み水、食べ物といった緊急支援から、家屋の再建段階へと移行していくだろう。継続的にニーズの把握に努めるとともに、ミャンマーを知るイベントの開催を続けて寄付を呼び掛けたい」「支援が集まりにくい小さな町にも現地の人々の協力を得て支援を届けたい」と述べました。さらに、女性の生理用品や、幼児、高齢者用のおむつ、メンタルケアなどの支援の重要性も指摘しました。

                        *

 2019年7月にスタートしたドットワールドは、昨夏、創刊5周年を迎えました。これまでのご愛読と応援に心から感謝いたします。節目のタイミングでご縁をいただきスタートした8bitNewsとのクロスメディア番組「ドットワールドTV」を通じて、一層多くの方々に記事をお届けできれば嬉しいです。ぜひご視聴ください。

 ドットワールドはこれからも世界の人々から見た世界の姿や彼らが大切にしているもの、各国の報道ぶりや現地の価値観を喜怒哀楽とともに伝えることで、多様な価値観を理解し、違いを受容し合える平和で寛容な一つの世界を築く一助となることを目指します。引き続きどうぞ宜しくお願いします。

 

 

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