極真の精神で世界に平和を
孤児院育ちから空手に出会い、カチン州に道場を開いたヤクさん
- 2019/7/10
平和を願う強靭な精神力を育てる
空手という戦う技術を極めようとするヤクさんは、その一方で家族を追いやった内戦を強く憎み、争いから距離を置く。「みんなが空手の精神を理解すれば、世界は平和になる」。そう考えて子どもたちと接する。門下生の中には、けんかで勝つことが目的で空手を習おうとする子どももいる。ヤクさんは入門から数か月間は体力トレーニングを中心に行い、本格的な空手の指導に入ることはしない。その間の訓練で、体とともに心を鍛えるのだという。そこで強調するのは空手が人間の内面の強さを求める点だ。「子どもの心のカギとなる言葉を投げかけることが大切だ」とヤクさんは話す。そのうち、けんかで勝つよりももっと重要なことがあると子どもたちも理解するという。
数年にわたるヤクさんの指導で、後輩たちも育ってきた。ヤクさんが直接指導しなくても、師範代クラスの門下生が中心となってトレーニングできるようになったし、中には自立して道場を開いた門下生もいるという。なんと2019年春には、7歳の門下生がシンガポールの大会を勝ち抜き、東京で行われる世界大会に出場する機会を得た。ヤクさんも指導者として東京まで引率、世界の格闘家と交流し、感無量だった。
現在、ヤクさんには新しい目標ができた。カチン民族の英雄で、世界的な総合格闘技の大会であるONEチャンピオンシップ世界王者の「ビルマの大蛇」アウンラ・ンサン氏から、直々に「自分と一緒にアメリカで活動しないか」と誘いを受けたのだ。格闘家としては、世界の強者と戦うことのできるまたとない機会だ。「自分が世界でどこまで通用するかチャレンジしたい」と語るヤクさん。日本の空手の精神を胸に、カチン州からひとり格闘家が平和のために戦うため、いま世界に飛び立とうとしている。