イスラエルのレバノン侵攻で高まる泥沼化の懸念
「中東のパリ」と呼ばれた国で繰り返される争いの歴史

  • 2024/11/9

 イスラエル軍が隣国レバノンで、イスラム教シーア派組織ヒズボラに対する地上作戦を開始して、11月1日で1カ月が経った。レバノンへの軍事侵攻が国際社会の非難を浴びる一方、ヒズボラもイスラエルに対してロケット弾で攻撃するなど徹底抗戦の構えを見せており、戦闘の拡大が懸念されている。

wikimedia commons

長期化が予期されていた戦闘

 パキスタンの英字紙ドーンは、10月2日付の社説で、すでにイスラエルとレバノンの戦闘の長期化を予見していた。

 社説はまずイスラエルが1982年にもレバノンに侵攻したことに言及し、「テルアビブが北の宿敵(ヒズボラ)を追ってレバノン領に侵攻したことで、歴史は繰り返された」と述べた。だが社説は、イスラエルが前回と同じように敵を排除できるとは見ていない。「イスラエルは抵抗勢力全体を壊滅できると考えているが、ゲリラ組織であるヒズボラの幹部たちは戦力が大幅に低下しても戦意を失うことはないだろう」と指摘し、戦闘の長期化を懸念した。

 社説はまた、イスラエルの一連の戦闘行為について、「ハマス打倒を掲げて、ガザ地区の無防備な住民を壊滅させた。そして今度は、ヒズボラを終結させようとして、レバノンの民間人を数百人殺害している。人口500万人あまりのレバノンで、避難民はすでに100万人近くに上っている」と述べ、一般市民への被害を出し続けていることを批判する。

 さらに、イスラエルの行動を止めることができない国際社会に対しても批判を強め、次のように述べた。「イスラム協力機構(OIC)とアラブ連盟は、ガザ地区におけるイスラエルの暴走も、レバノンに対する野蛮な侵略も、阻止できずにいる。また、欧米諸国はほとんどがイスラエルを断固として支持しており、米国もイスラエルへの支援をやめない。だが、ここで阻止できなければイスラエルはさらに大胆になり、ほかの中東地域の国々をも攻撃するようになるだろう」

イスラエルの侵攻を許した「レバノン化」

 インドの英字メディア、タイムズ・オブ・インディアが、10月3日付の社説「レバノン化」で論じたのは、レバノンが抱える「分断」という火種についてだ。

 レバノンはかつて「中東のパリ」と呼ばれ、観光地であり、金融の中心でもあった。社説は、そのレバノンが1970年代半ば以降の内戦で荒廃したことに触れ、「宗教的過激主義と深刻な社会分裂が根付いてしまえば、どんな国も安全ではいられない」と述べた。

 社説によれば、この内戦の引き金となった根源的な要因は、「主要な宗派に権力を分配するという、独特な政治システム」にあったという。レバノンでは今でも、大統領はマロン派キリスト教徒、首相はイスラム教スンニ派、議会議長はイスラム教シーア派というように、権力者の宗派がばらばらだ。

 社説は「政治が宗派ごとに分断されているために、この地を代理戦場とする国際勢力の介入を許した」と指摘する。「あらゆる国がそれぞれに代理勢力を育て、最終的にはレバノン国家が弱体化した。宗教や宗派の違いを乗り越えて社会全体が団結できなかったことが、レバノンを苦しめ続けている」

 さらに社説は、「国内の宗教的分裂がどんな事態を招くのか、われわれはレバノンから教訓を得ることができる。このような“レバノン化”は、すべての国家に対する警告だ」と述べ、分断が加速する国際社会に警鐘を鳴らしている。

バイデン大統領の「最後の試練」

 また、インドの同紙は10月4日付でも、社説「火に油を注ぐな」で米国の態度に言及している。

 社説は、イスラエルがイランへの報復措置として石油関連施設をミサイル攻撃する可能性があると指摘。「そうなれば悲惨な結果になることは目に見えている。米国はイスラエルの攻撃を阻止するために全力を尽くさなければならない」と訴え、イスラエルを支援する米国の責任を強調した。

 そのうえで社説は、これがバイデン政権(当時)の「最後の試練」になるだろうと指摘。「米国はこれまで、イスラエルのネタニヤフ首相を抑制することができずにいたか、抑制する意思すらないままだった。しかし、民主党の中にも、内心、イスラエルに憤慨している人は多いはずだ。バイデン政権はネタニヤフ氏にこれ以上大きな損害を引き起こさせないように働きかけなければならない」と述べた。

 10月末時点では、懸念されていた石油関連施設への攻撃は確認されていない。しかし、米大統領選の結果の如何を問わず、米国のイスラエルに対する姿勢に今後も注目する必要がある。

 

(原文)

パキスタン:https://www.dawn.com/news/1862544/lebanon-invasion

インド:  https://timesofindia.indiatimes.com/blogs/toi-editorials/lebanonisation/

インド:  https://timesofindia.indiatimes.com/blogs/toi-editorials/dont-fan-this-flame/

 

関連記事

 

ランキング

  1.  米国で第二次トランプ政権が発足して以来、誰もが国際社会の枠組みの再構築に向けた動きが加速し始めたと…
  2.  軍事クーデターの発生から2025年2月1日で丸4年が経過したミャンマー。これまでに6000人以上の…
  3.  トランプ氏が2025年1月20日に返り咲きの第二次政権をスタートさせてから1カ月あまりが経つ米国で…
  4.  ドットワールドとインターネット上のニュースサイト「8bitNews」のコラボレーションによって20…

ピックアップ記事

  1.  民族をどうとらえるか―。各地で民族問題や紛争が絶えない世界のいまを理解するために、この問いが持つ重…
  2.  ドットワールドとインターネット上の市民発信サイト「8bitNews」のコラボレーションによって20…
  3. 「パレスチナ人」と一言で表しても、生まれ育った場所や環境によって、その人生や考え方は大き…
  4.  民族をどうとらえるか―。各地で民族問題や紛争が絶えない世界のいまを理解するために、この問いが持つ重…
  5.  ミャンマーでは、2021年の軍事クーデター以降、国軍と武装勢力の戦闘や弾圧を逃れるために、自宅…
ページ上部へ戻る