フランシスコ教皇が死去、多様性を愛した「民衆の教皇」
カトリック最高指導者の死を東南アジア各紙はどう報じたか
- 2025/5/9
キリスト教カトリック教会のローマ教皇庁は4月21日、教皇フランシスコの死去を発表した。世界のカトリック信者は14億人あまり。バチカンの聖ペトロ広場をはじめ、世界各地で教皇をしのぶ礼拝が行われ、メディアには追悼の言葉が並んだ。
社会から排除された人々を抱き寄せる姿勢を絶賛
カトリック教徒が多いフィリピンの英字紙、フィリピンデイリーインクワイアラーは、4月23日付の社説で「排除された人々のための教皇」と題した記事を掲載した。
社説は、フランシスコ教皇が2013年11月、レイテ島タクロバンで6000人以上が死亡した台風「ヨランダ」の被災地を訪れた際のことを振り返る。教皇は「私はあなたと共にいるためにここに来た。少し遅くなったが、私はここにいる」と述べ、その言葉は「被災者たちに、慰めと安心をもたらす薬」になったという。
さらに、教皇が同性愛を犯罪化する法律を「不公正」だと批判したことや、同性カップルへの支援を表明したことにも言及。さらに、HIV/AIDS患者、未婚の母親、命懸けで海を渡る難民らに対して、教皇がどのような姿勢で向き合ったかを伝えた。
さらに社説は「アルゼンチン出身のフランシスコ教皇は、12年間の在位中、貧困層や、社会で排除された人々をあたたかく抱き寄せるような言動で、『民衆の教皇』として知られた」と述べ、教皇の姿勢を称賛。一方で、「その行動は、教会の伝統的な教義を揺るがすものとしても注目された」と指摘し、評価が分かれていることにも言及した。
イスラム教国でも「道徳的遺産」として称賛
イスラム教徒が多いインドネシアの英字紙、ジャカルタポストも、4月23日付の社説で「民衆の教皇」という言葉で教皇の「道徳的遺産」をたたえ、その姿勢が後継されることへの期待を寄せている。
社説は、フランシスコ教皇について、「すばらしく純真な心を持ち、人々を真摯に守り、ガザの人々を含む同胞への純粋な愛を抱く人物であり、理想的なリーダーと言えるだろう。世界が右傾化しつつある今、他の指導者とは比べようもない」と、高く評価した。
さらに社説は、フランシスコ教皇が、インドネシアの多様性が有する美しさを称賛したことにも言及した。社説によれば、かつて教皇は、インドネシアの「多様性の中の統一」と「社会正義」の原則を讃えたという。
「教皇は進歩的な改革者であり、保守的な教会内では、他の高官と対立することも多かった。それでも彼は、少数派・弱者の保護への決意をためらうことなく示し、社会正義を実現しようとした。また、彼は他の宗教の指導者、特にイスラム教の指導者とも深い関係を築いた」
社説はフランシスコ教皇の後継者について、「新たな課題が待ち受けるなか、後継者は重要な役割を担う。フランシスコ教皇の遺志が引き継がれることを願う」と強調した。
効果的な措置を講じられなかった性的虐待スキャンダル
スリランカの英字紙デイリーニューズも、4月24日の社説で「驚くべき遺産」として、「1300年ぶりに欧州以外から選出された教皇」のさまざまな偉業を列記した。また、教皇が移民問題など政治的な問題にも「躊躇なく踏み込んだ」と評価した。その一方で、カトリック教会を揺るがした性的虐待スキャンダルについては、「効果的な措置」を講じたとは言えない、と批判。「ほぼ完ぺきな遺産を汚すただひとつの黒点」だと指摘する。
また、社説は後任の教皇についても言及。「フランシスコ教皇が選んだ革新的な道を歩むか、教会をより保守的で内向的な組織に変えるかが問われている。分極化と紛争に満ちた世界で、前例のない課題に直面することになるだろう」と、その重要性を強調している。
(原文)
フィリピン:
https://opinion.inquirer.net/182655/pope-of-the-excluded
インドネシア:
https://www.thejakartapost.com/opinion/2025/04/23/pope-francis-moral-legacy.html
スリランカ:
https://www.dailynews.lk/2025/04/24/editorial/766243/pope-francis-a-remarkable-legacy/