原発の処理水放出計画で対日感情が悪化する太平洋地域
不信感を煽って取り込みを図る中国の狙いとは
- 2023/3/23
日米への離反を狙い展開される情報戦
日本は1980年代から経済援助などを通じて太平洋島嶼国と良好な友好関係を維持してきた。他方、水面下では、日本への不信が消えたわけではなかったのだ。
そうした中、近年、中国は太平洋島嶼国から米英仏豪やニュージーランド、日本などを放逐し、覇権を拡大して影響力を強めようとしている。中国は、この地域の国々が歴史的な経緯から「核アレルギー」が強いという事情を知り尽くしている。だからこそ、日本の処理水の海洋放出計画への反発という、いわば「敵失」を利用して、島嶼国を日本や米国から離反させようと、積極的に情報戦を展開している。
たとえば中国国際問題研究院の蘇暁暉副研究員は、「人民網日本語版」が2022年6月に配信した記事で、「日本は、ことあるごとに米国と足並みをそろえ、“ルールに基づく秩序”を口にする。しかし、原発汚染水の海洋放出の問題にしろ、安全保障や軍事の戦略の問題にしろ、その“ルール”が彼らや身内の限られた集団にとっての行動規範に過ぎず、国際ルールでないことは明らかだ」「原発汚染水の海洋放出計画にも、そうした国際ルールを強引に持ち出すという悪弊が見られる」と語っている。処理水の放出計画への反発を、日本のみならず米国にも拡大することで島嶼国を中国側に引き寄せるとともに、彼らの言い分に同調してみせることで中国に対する信頼を高めようとしているのだ。
さらに、前出の「人民網日本語版」は今年2月、プナ・PIF事務局長の発言を引用しながら「原発汚染水を海洋放出しようとしている日本は非常に責任だ」という声が現地で高まっていると報じ、その後、3月にも「汚染水の海洋放出を強行することは、責任ある国がすべきことではない」という中国外交部の見解を伝えた。こうしたプロパガンダは、すぐに日本語と英語に翻訳され、ニュージーランドのパシフィカニュースなど、島嶼国に強い影響力を有するプラットフォームで大々的に配信されている。
パシフィカニュースは、オーストラリアの専門家らが執筆した「原発処理水の海洋放出は安全だ──反対派が見落とす点とは」のように日本寄りの記事も配信しているが、全体で見れば中国の情報戦が質量ともに圧倒しているのが現状だ。中国の狙いは、日本を貶めることで国際社会における中国の味方を増やすことにある。究極的には、太平洋諸島の資源確保と、その先にある軍事戦略につながる。
膨大な核兵器を保有し他国を脅かす中国は、最近も新疆ウイグル自治区で核実験を繰り返し、少なくとも数万人のウイグル人が死産や奇形、白血病、甲状腺がんといった健康被害を受けたと報告されているうえ、中国沿岸部にある原子力発電所から処理水が東シナ海へと放出されている。このように、言動が一致せず矛盾だらけであるにも関わらず、中国の心理戦は、実に巧みである。
こうした中、日本は、計画通りに処理水を放出するにせよ、時期を延期したり、深海層に放出したりすることで、島嶼国の国々の安心を得るように努力を重ねるべきではないか。また、地球温暖化対策支援など、島嶼国への援助の拡大も検討すべきだろう。
日本は、広島市で5月に開催予定の先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)の拡大会合に太平洋島嶼国クック諸島のマーク・ブラウン首相を招待した。クック諸島は現在、PIFの議長国を務めており、外交面で賢明な判断だ。また、PIFの次期事務局長には、親台湾派として知られるナウルのバロン・ワンガ元大統領が就任することが予定されている。日本はこの機を逃さず、島嶼国地域の平和と安全に貢献する立場を積極的に行動で示していくべきだと思われる。