第二次トランプ米政権の発足で始まった超党派の協力
「決められない政治」の解消と引き換えに無視される伝統の結末は

  • 2025/3/6

 トランプ氏が2025年1月20日に返り咲きの第二次政権をスタートさせてから1カ月あまりが経つ米国では、新政権の非伝統的な運営により怒涛の展開が続いている。
 その一方で、米政治では興味深い現象が起きている。二大政党である共和党と民主党が、移民問題や予算などこれまで対立することが多かったイシューについて超党派で協力する場面がわずかながら増えつつあり、「決められない政治」と揶揄されることも多かった米議会で事がスムーズに運び始めているのだ。世論調査でも両党の協力を望む声は高まっており、有権者の要望に沿った動きだと言えよう。
 こうした変化に市民がどう反応しているのか読み解く。

共和党の圧勝を受け、民主党が協力的姿勢を見せることが増えた。 写真は、2025年1月20日の週認識で演説するトランプ大統領と、それを後ろで見守る民主党のバイデン前大統領。 © The White House / X

世論調査から浮かび上がる国民の統合に対する渇望

 2024年11月の米大統領選挙では、共和党と民主党の支持者がこぞって互いの候補を非難し合い、米国の分断が如実に表れた政治イベントとなった。結果は、大統領選挙・米上下院選挙のすべてで共和党が勝利するという、決定的な国民の審判が下った。

 こうして発足した新政権だが、トランプ氏が二度目の大統領に就任した直後に大手調査会社イプソスが1077人の米成人を対象に行った世論調査では、「トランプ氏を支持する」という回答が全体の47%、「支持しない」が41%と、ほぼ拮抗している。

 

トランプ大統領就任直後に行われた世論調査では、トランプ氏支持が全体で47%、不支持が41%であった。 民主党支持者と共和党支持者で分けて見ると、違いが際立つ。© Ipsos/ Reuters /Public

 しかし支持党別に見ると、民主党支持者のうち「トランプ氏を支持する」と答えたのは9%に過ぎず、不支持が84%に達した。逆に、共和党支持者は「トランプ氏を支持する」が91%と圧倒的多数を占め、不支持は5%に過ぎない。米社会における政治的な分断が根深いことを示している。

 その一方で、米国民の多くは、長年続いている分断や争いにうんざりしている。

 米ジョージタウン大学が800人の有権者登録をした米国人を対象に大統領選直後に実施した世論調査によれば、回答者のほぼ全員にあたる95%が、「次期大統領のトランプ氏には、米議会の共和党と民主党の双方と協力してほしい」と答えている。

 さらに注目されるのは、回答者の82%が「トランプ大統領が米議会と妥協点を見出すのなら、その内容が自分の望むものとは異なっていても米国のためには良い」と答えている点だ。また、「与野党の議員たちは、それぞれの主張と多少違う点があっても、協力して超党派法案を可決してほしい」と回答する者も71%に上っている。

 こうした回答から、米国民はたとえ不完全なものであっても、共和党と民主党が協力して法律を成立させることが必要だと考えていることが分かる。

 米有権者の多くは党派性のある考えを有しているが、内心では政治指導者たちが党派を超えて協力し合うことで、社会や経済が安定することを望んでいるのだ。これは、一見、矛盾しているように思えるが、国民の統合に対する渇望はそれだけ強いと言えよう。

インフレ対策や教育は支持党を超えた願い

 保守派でもリベラル派でもない無党派層で構成される米シンクタンクのインディペンデント研究所がトランプ大統領の就任直後に実施した世論調査でも、米国民の関心が、実は党派を超えて似通っていることが判明している。

 例えば、「トランプ政権に優先してほしい政策課題は何か」という質問に対しては、「インフレ対策」という回答が共和党支持者で87%、民主党支持者で81%、無党派で78%といずれもトップを占めた。この結果について、インディペンデント研究所は、「物価をいかに下げるかという方法論は政党によって異なるが、超党派の協力を築くための基礎が共通している」と分析する。

物価安定は、党派を超えた米国民の願いだ。© ZBreakingNewz / X

 また、教育も超党派で共通の要望が強い分野だ。表面的に見れば、多様性や包摂などの社会正義の問題や、公立学校を選択制にする公教育の「半民営化」をめぐってリベラル派と保守派の分断が深まっている。だが、保護者が児童や生徒の教育に望む「結果」には、党派は無関係であることが判明している。

 例えば、公教育政策の支援を行っている米ハント研究所が、大統領選挙が行われる直前の2024年9月に1310人の有権者を対象に実施した世論調査では、「わが子に高卒後の仕事に適応できるよう職業訓練をしてほしいか」という設問に対し、95%が同意している。この回答には党派による違いがないため、米議会や州レベルの政治で共和党と民主党が有権者の希望を基に政策を立案することができよう。

 事実、同調査では「具体的にどのようなスキルを子どもに身に付けさせたいか」という問いに複数回答で答えてもらったところ、「問題解決能力」と「コミュニケーション能力」がそれぞれ49%、「批判的思考能力」が47%、「読解力」が45%、「個人的な責任感」が43%、「チームワーク」が42%と、どちらの党派もほぼ同じ回答であった。

 政治家は、こうした保守派とリベラル派の共通の願いを見出し、自党の支持者にとどまらず、最大多数の有権者の要望に応える法律を策定することが求められている。

共和党に歩み寄る民主党議員

 また、今回の選挙でトランプ共和党が圧勝したことを受け、民主党の一部の政治家から「共和党を批判するだけではダメだ」という反省の声が上がっている。

 彼らは、米国民の関心が高い不法移民問題に関し、罪を犯していない不法滞在者の強制送還には反対するが、凶悪犯罪を引き起こした不法滞在者の本国送還には協力する姿勢を明らかにするなど、従来の不法移民保護の立場から一転、柔軟な姿勢を見せつつある。

民主党の政治家の中には、共和党が圧勝した選挙結果を受けて、共和党の政治家と話し合い、協力を模索する人たちが現れた。写真は、2024年12月11日に会合を持って仲良くポーズをとる東部ペンシルベニア州選出のジョン・フェターマン上院議員(民主党)(左)と、トランプ政権の国連大使に指名されているエリーズ・ステファニク下院議員(共和党)@ EliseStefanik / X

 例えば、接戦州の東部ペンシルベニア州選出の民主党下院員議員、クリス・デルジオ氏は、不法滞在者に対して「法律に従わず、罪を犯したら、本国に帰ってもらう」というメッセージを発表し、注目を集めている。

 加えて、共和党が推進する財政のムダの削減について「できる部分は協力しよう」という声を上げたり、バイデン前政権が進めたクリーンエネルギー政策についても「失敗した部分を認めよう」と発言したりすることで共和党に歩み寄りの姿勢を見せる民主党の政治家も増えている。ペンシルベニア州選出のジョン・フェターマン上院議員(民主党)と、トランプ政権の国連大使に指名されているエリーズ・ステファニク下院議員(共和党)が2024年12月に友好的な会談を行ったのは、その好例だ。

 こうした超党派の協力の成果に関する有権者の評価や街角インタビューは、新政権発足から日が浅いためか、まだ発表されていない。しかし、民主党側では、2026年の中間選挙や2028年の大統領選挙に向けて今回の敗因を分析したうえで、「国民の声を傾聴し、共和党と協力できるところは協力する」という動きが顕著だ。

 その背景には、共和党のやることなすこと何にでも抵抗するのではなく、国民のために協力する姿勢を見せることで、逆に共和党の欠点が浮き彫りになり、将来の選挙で民主党が有利になるという思惑がある。

議席の奪還を念頭にポピュリスト的な政策の訴えも

 民主党はこれまで、法の支配や国際協調、民主主義の理想を追求する立場から、大衆に迎合する政策を避ける傾向があった。しかし党内では、次の中間選挙や大統領選挙で勝つために、ポピュリスト的な政策を採用すべきとの声が高まる。この立場が主流となれば、ポピュリスト政党となった共和党との超党派的な協力が容易になると思われる。

不法滞在者対策は、米有権者に人気の高い政策だ。この分野の超党派的な協力は増加すると見込まれる。 写真は、国境地帯に積み上げられたトランプ大統領の「国境の壁」のための建設資材 © ViolaLeighBlues / X

 例えば、民主党進歩派のシンクタンクである米ルーズベルト研究所のエリザベス・パンコッティ研究員は、2024年11月16日付の米アトランティック誌で、「民主党から離れた有権者を取り戻し、選挙の帰趨をひっくり返せる勢力になるためには、ポピュリスト的な政策を掲げる候補を多く立てる必要がある」と述べた。

 また、民主党の重鎮であった西部ネバダ州選出の故ハリー・リード元上院議員の参謀を務めたアダム・ジェントルソン氏も、2024年11月16日付の米ニューヨーク・タイムズ紙に寄稿し、「わが党は、戦略を定める際、『この政策は有権者の反発を受けないか』と自問することを基準とすべきだ。2026年の中間選挙は上下両院で民主党が議席を奪還するチャンスであり、(性的少数派や少数民族、不法移民の権利といった)社会正義に焦点を合わせるのではなく、労働者層の関心が高い移民の制限や労働環境の改善、環境規制の緩和による経済刺激策などを強く打ち出すべきだ」と提言している。

「トランプ独裁」でぶち壊しか

 とはいえ、残念ながら、トランプ大統領の就任後に起きているのは、有権者が望む超党派的な協力からほど遠い。

物価抑制は、有権者の党派を超えた願いだが、トランプ政権の大型減税や高関税などインフレ的な政策で、逆に上昇することが懸念される。写真は、米スーパーマーケットで価格が従来の3倍以上に上昇した鶏卵。 © Michael Oxford / X

 なぜなら、共和党が圧勝したことで、「民意が自身に完全に負託された」と受け止めたトランプ大統領が次々と大統領令を発し、議会共和党のみならず、議会民主党も無視する形で政策を実行しているからだ。

 超党派の協力が吹き飛ぶ怒涛の勢いで政治を行うことで、これまで米国民の大きな不満の原因であった議会勢力拮抗による「決められない政治」は解消されつつある。だが、有権者のおよそ半分を占める民主党支持者や、共和党内部の非トランプ派などが置き去りにされ、「民主主義の危機」が叫ばれるありさまだ。

米議会では拮抗していた勢力が共和党側に傾き、トランプ大統領のアジェンダが通りやすくなっている。 © Nexta /X

 ここで改めて、米有権者のうち圧倒的多数が「トランプ大統領には米議会の共和党と民主党の双方と協力してほしい」と要望しているという事実に立ち返りたい。

 第二次トランプ政権による政策の実行は鮮やかでペースが速く、公約を守り、一見、仕事をしているように思われる。だが、議会で議論を尽くして課題を解決するという、建国以来およそ250年にわたる伝統がこのまま無視され続けるならば、米国民のトランプ政権に対する支持率は、早晩、下降するだろう。

 

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