龍が翼を広げたか ディープシーク・ショックに反応する各国
人工知能の開発競争から生まれる新たな世界秩序

  • 2025/3/8

 中国のAI(人工知能)スタートアップ企業「ディープシーク」が2025年1月20日、新型の生成AI「R1」を発表した。従来のAIが学習したデータから回答を提示するのに対し、生成AIは学習したデータから新しいコンテンツを作成できる。「R1」は、現在使われている生成AIの最新モデルに匹敵する性能を持つにも関わらず、開発費ははるかに安価であり、テクノロジー界に衝撃を与えている。

(c) Steve Johnson / Unsplash

最先端の半導体なしで成し遂げられたイノベーション

 「AI戦争が始まった」との書き出しでディープシーク・ショックを伝えたのは、2025年1月31日付のパキスタンの英字紙ドーンである。

 同紙は、ディープシークの開発費について、フィナンシャルタイムズ紙を引用しながら「600万ドル未満だった」と社説で伝えている。それによれば、中国のエンジニアたちは開発にあたり、アメリカの半導体メーカー、エヌビディア社製の最も性能の良いAIチップを使うことができなかったという。アメリカ政府が中国での販売を禁止しているためだ。しかし、「そうした制約があったからこそ、このようなイノベーションが生み出された」と、社説は驚きを隠さない。

 「この技術的な飛躍には、重要な意味がある。アメリカの制裁措置によって中国のAI開発が大幅に遅れるという考え方は、もはや通用しないことが示されたからだ。アメリカの封じ込め戦略は失敗し、人工知能における新たな世界秩序が生まれた」

 社説はこう指摘したうえで、「龍はついに翼を広げようとしている」と締めくくっている。

R1は21世紀のスプートニクか

 一方、インドの英字メディア、タイムズオブインディアは、ディープシーク・ショックについて「深く考えよ、ドナルド」と題する社説を掲載した。

 「戦争とテクノロジーの世界で、『1週間』は長い時間だ」と社説は書き出す。1週間というのは、トランプ米大統領がAI開発に5000億ドルを投じると発表してから、ディープシークが「R1」を発表するまでの時間だ。社説は「テクノロジー業界の変化の速さを象徴している」と述べる。そして、「R1が開発された今、多額の資金を投じることに意味があるのか」と、トランプ氏の決断に疑問を抱く専門家が出ていることを指摘する。

 さらに社説は、ディープシークの功績について、「アメリカを屈辱に陥れたソ連の人工衛星・スプートニク1号になぞらえる人もいる」と述べている。そのうえで、「インドは今のところ、AI競争でまったく存在感を示せていない」として、自国のAI開発が遅れをとっていることに懸念を示し、こう問いかけている。

 「ディープシークは、AI開発には巨額の予算と最新チップが必須だという神話を打ち砕いた。アメリカは今、肩越しにインドの出方をうかがっている。インドはスタートラインに立つことはできるだろうか?」

刻々と変化するAIに遅れをとる国も

 一方、「AI利用の準備ができていない」と嘆くのはネパールの英字紙カトマンドゥポストだ。ディープシークが「R1」を発表する前の2025年1月7日付の社説だが、同紙はAIへの投資で世界に出遅れている自国の状況に懸念を示す。また、日常生活においてAIツールが浸透していく一方、AIの利用に関する法規制については「まだ初期段階にあり、遅れている」とも指摘した。

 しかし社説は悲観にとどまることなく、「我々はAIがもたらす課題への対応に努めてきた他国から学ぶことができる」として、「人工知能省」を設立したアラブ首長国連邦、AI法を持つ欧州連合、AI庁がある英国などの事例を挙げる。そして、「この複雑な迷路を歩むネパール国民、特に若者たちを安全にナビゲートするために、あらゆる支援が必要だ」と主張する。

 さらに社説は「AIツールは急速に進化しており、年単位や月単位ではなく、もはや時間単位で進化している」とも述べている。この社説が掲載されてから数週間後、この言葉は「R1」という実体を伴い目の前に現れることになった。今後もAIの進化から目が離せそうにない。

 

(原文)

パキスタン:

https://www.dawn.com/news/1888782/deep-shock

インド:

https://timesofindia.indiatimes.com/blogs/toi-editorials/look-deep-donald/

ネパール:

https://kathmandupost.com/editorial/2025/01/07/not-ready-for-ai

 

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