ソロモン諸島の総選挙から南太平洋の安全保障枠組みを占う
中国による併呑を自由と民主の価値観で食い止めるために

  • 2024/5/6

草の根レベルの力を生み出す日本の支援

 筆者は今回、約2週間にわたり、首都ホニアラ、マライタ州都アウキ、そして第二の都市ギゾに滞在し、ソロモン諸島で日本人がいかに好意を持たれているのか実感した。アウキでは、筆者が日本人だと分かると、港湾や市場などが日本の支援で整備されたことへの謝意を何度も伝えられた。また、ギゾでは、歩いているだけで「君はJICA(編集部注:国際協力機構)か」と声をかけられた。

マライタ州州都アウキの波止場は日本の支援でつくられた。現地で日本は深く感謝されている(2024年4月、筆者撮影)

 他方、時に中国語を話し、中国人にも見える筆者には、中国人への警戒感や嫌悪に満ちた声もしばしば届いた。事実、ソロモン諸島における社会経済の営みや、中国系住人との関係性などを観察してきた筆者から見ると、マライタ州に限らず、同国における一般市民の対中感情はおおむね悪い。高価な輸入食品や雑貨を扱う日用品店の経営がほとんど中国系住民に牛耳られ、木材の伐採や鉱山開発などの資源開発が中国系企業に主導されていることから、「中国に搾取されている」という感情を抱く人が多いためだ。中国の支援は政界が腐敗する原因になっているという批判も、少なくない。中国の支援で建設されたことを誇示するパシフィックゲームズのスタジアムを指しながら、「こんなものより、病院に薬が行きわたる方が大切なんだ」と訴えるタクシー運転手にも出会った。

焼き討ちにあい、放置されたままのチャイナタウン(2024年4月、筆者撮影)

 こうした人々の感情を背景に、今回、野党側の首相候補に擁立されたマチュー・ワレ氏は、若者の失業率の高さや、病院の医療物資不足の原因に中国化を挙げ、「自分が首相になった暁には中国との距離を置き、米英豪との関係を改善して教育や保健衛生インフラを強化する」と訴えた。もしも彼が首相になったら、外交が再び台湾にスイッチする可能性もあっただろう。しかし、現実には、一般有権者が野党連合に投票することで示された民意が政治に反映されることはなく、首相には親中派が選ばれた。政界も官僚界も、それだけ中国企業と癒着し、既得権益が固定化していることが白日の下にさらされた格好だ。

ソロモン諸島で雑貨を扱う日用品店を経営しているのは、ほとんどが中国系住民だ (2024年4月、筆者撮影)

 アウキ市内で小さな観光会社を営むサイラス氏は、「マライタの発展にチャイナマネーは要らない。中国は確かに巨額の資金を投じてこの国に橋や建物を作ってくれる。でも、私たちが求めているのは、何かを建設してオーバーハンドしてくれる形の支援ではなく、我々とともに一緒に考え、協力してくれるパートナーなんだ。そういう支援をしてくれるのは台湾、そして何より日本だ」と話してくれた。

アウキ市内で小さな観光会社を営むサイラス氏(2024年4月、筆者撮影)

 こうした日本と中国の支援の本質的な違いこそが、ソロモン諸島を経済的社会的に併呑しようとする中国に抵抗する草の根レベルの力につながっているのではないか。ソロモン諸島の中国化を防ぎ、その安全保障の枠組みを自由と民主の価値観で支え続けるためには、日本が果たす役割も意外に大きいようだ。これが、今回の選挙を現地で取材し、肌で感じた率直な印象だ。

上空から見たソロモン諸島(2024年4月、筆者撮影)

 

ページ:
1

2

関連記事

 

ランキング

  1.  世界で最も権威のある報道写真コンテストの一つ、「世界報道写真(World Press Phot…
  2.  アメリカのトランプ大統領とロシアのプーチン大統領があいついで中国・北京を訪問し、習近平国家主席…
  3.  アメリカとイランの戦争は、不安定な停戦に入ってなお予断を許さない状況にあります。アメリカ在住の…
  4.  2024年7月から8月にかけて若者らの抗議活動が激化し、当時のシェイク・ハシナ首相率いるアワミ…
  5.  1990年代初頭、内戦の傷跡が色濃く残るカンボジアに足を踏み入れた一人の日本人がいました。学校づく…

ピックアップ記事

  1.  30年前、内戦直後のカンボジアで、戦火をくぐり抜けて残った数本の在来種の胡椒の木を大切に育てる老農…
  2.  少数派イスラム教徒ロヒンギャの人々の証言を基に紡がれた映画『LOST LAND/ロストランド』…
  3.  ドットワールドと8bitNewsのコラボレーションによって2024年9月にスタートした新クロスメデ…
  4.  世界の映画祭を巡りながら、観る者の心を静かに、そして確実に揺さぶっている映画が4月24日より一般公…
  5.  タイで昨年、これまで認められていなかったミャンマー人難民の就労を認める制度が始まりました。北西…
ページ上部へ戻る