「気候変動対策を最優先に」アジアの途上国で募る危機感
先進国だけではなく途上国でも後回しにされる環境政策

  • 2024/12/27

 2024年11月24日までアゼルバイジャンの首都バクーで開かれた「第29回国連気候変動枠組み条約締約国会議」(COP29)は、気候変動の影響が深刻化する途上国と先進国の間に深い対立の根を残した。その一方で、COPの成果とは別に、国内での気候変動対策が進まないことへのいら立ちを募らせるメディアもある。

(c) Sergey Pesterev / Unsplash

氷河湖の決壊に脅かされるネパール
 ネパールの英字紙カトマンドゥポスト紙は、COPが開幕した翌日の2024年11月12日、この問題を社説でとりあげた。
 社説はまず、ネパールが気候変動の影響下でどのような状況に直面しているかについて、次のように説明した。
 「今年もネパールでは、モンスーンのシーズンが終わってもモンスーンが続き、9月下旬まで洪水に見舞われた。8月には、氷河湖の決壊による洪水、いわゆる氷河湖決壊洪水GLFOが発生し、エベレスト地域有数の観光地であるタメ村で家屋が流され、135人が避難を余儀なくされた。国際山岳開発センターによると、ヒマラヤ山脈では2050年までにGLFOの発生件数がピークに達するという」
 ネパール政府は、温暖化によって引き起こされるこうした課題について、COPの場で訴える任務を背負っているが、社説は政府の姿勢について懐疑的な味方を示す。「政府の姿勢には大きな疑問が残る。ネパールの指導者たちは、COPでこれらの緊急のニーズを効果的に伝え、そしてCOPでの議論を国内での具体的な行動につなげることができるだろうか」
 さらに社説は、ネパール国内では気候政策が「政治的な不作為によって」しばしば脇に追いやられてしまう、と指摘する。「問題がこれほど深刻化しているにもかかわらず、ネパールの代表団がCOPで説得力のある主張ができず、会議を形式的なものにしてしまっているのはそのためだ」と社説は主張する。
 気候変動危機の矢面に立つネパールの存在は、COPにおいて重要である、と社説は強調し、こう訴えた。「この機会を活用せず、COPにおけるネパールの役割を軽視することは、大きな機会損失であり、長期的な影響を残すことになるだろう。COPのプラットフォームを最大限に活用し、ネパール国民の生活と生計を守るために、指導者たちにできることはもっとあるはずだ」

地球が沸騰してもインドネシアは経済成長を目指すのか
 一方、インドネシアの英字紙ジャカルタ・ポストはCOPが閉幕した後、2024年11月25日付の社説でこの問題についてとりあげた。
 社説は、COP29について「世界、特に富裕国が気候変動の影響を緩和させるために拠出する資金について、不十分な合意しか得られなかった」と批判する一方、インドネシアについても「気候危機に対する消極的な姿勢を示したことには変わりがない」と指摘した。
 インドネシアがCOP29に派遣したのは、大統領特使で実業家のハシム氏だ。「環境に配慮しながら、雇用創出や飢餓撲滅、貧困削減を目指す」ことを掲げる同氏の主張について、社説は「経済発展を最優先し、環境への取り組みをリストの最後に置いている」と指摘し、次のように訴える。
 「国民の10人に1人以上が貧困ライン以下の生活を強いられているインドネシアでは、貧困と戦い、経済成長を促すことは間違いではない。しかし、グテーレス国連事務総長が『地球の沸騰化』と呼ぶほど温暖化が深刻化している時代に、環境を犠牲にしてまでそのような目標を目指すべきではない」
 さらに社説は、インドネシアが国内総生産の増加ばかりを目指すのではなく、持続可能な成長、つまり「将来の世代が、自らのニーズを満たす能力を損なうことなく、現在のニーズを満たす」ことのできる成長の達成に向けて真剣に取り組むべきだ、と主張している。

(原文)
インドネシア:
 https://www.thejakartapost.com/opinion/2024/11/25/its-never-about-the-climate.html 
ネパール:
 https://kathmandupost.com/editorial/2024/11/12/not-cop-ing-well

 

 

関連記事

 

ランキング

  1.  民族をどうとらえるか―。各地で民族問題や紛争が絶えない世界のいまを理解するために、この問いが持つ重…
  2.  シリアのアサド政権が2024年12月8日に突然、転覆してから約1カ月が経つ。新しいアハマド・シャラ…
  3.  大統領選挙で「ロシアとウクライナの戦争をすぐに止めさせる」と公約して当選した米国のトランプ次期大統…
  4.  ミャンマーでは、2021年の軍事クーデター以降、国軍と武装勢力の戦闘や弾圧を逃れるために、自宅…
  5.  2021年8月にイスラム原理主義勢力タリバンが20年ぶりに復権したアフガニスタンで、表現者や女性へ…

ピックアップ記事

  1.  民族をどうとらえるか―。各地で民族問題や紛争が絶えない世界のいまを理解するために、この問いが持つ重…
  2.  ドットワールドとインターネット上のニュースサイト「8bitNews」のコラボレーションによって20…
  3.  ミャンマーでは、2021年の軍事クーデター以降、国軍と武装勢力の戦闘や弾圧を逃れるために、自宅…
  4.  12月16日にオラフ・ショルツ首相の信任投票が否決された。それを受け、2025年2月23日に解散総…
  5.  ドットワールドとインターネット上のニュースサイト「8bitNews」のコラボレーションによって20…
ページ上部へ戻る