タイ・カンボジア国境での衝突 タイ現政権に深刻なダメージ
窮地に陥るタイ首相、揺れる両国の国民感情

  • 2025/7/13

 カンボジアとタイの国境をめぐる対立が混迷を深めている。発端は5月28日、国境にある係争地で起きた両国軍の銃撃戦において、カンボジア兵1人が死亡したことだ。その後、両国は合同国境委員会を開くなど、対話による解決を模索する動きもあったが、事態の解決に向けた進展はなく、緊張状態が続いている。

 事態は6月18日、カンボジアのフン・セン上院議長が、タイのペートンタン首相との電話会談の内容を公開したことで、さらに悪化した。現地からの報道によると、この会談でペートンタン首相は、自国の軍について批判的な発言をしており、タイ国内で首相に対する反発が高まったのだ。その結果、与党第2党が連立政権からの離脱を発表し、上院議会が憲法裁判所に首相解任を求める請願書を提出するなど、混乱が広がっている。また6月23日には、一部の国境検問所が閉鎖される事態に至ったが、両国とも、相手が先に閉鎖したと批判し合っており、主張は並行線だ。

タイ・カンボジア国境の町、アヤンラプラテットの国境検問所を訪れる、タイ首相のペートンタン・シナワット。カンボジアとの国境紛争への対応について厳しい批判を浴びている。(2025年6月26日撮影)(c) ロイター/アフロ

過激なナショナリストを取り締まれ」

 タイの英字紙バンコクポストは6月27日付の社説で、国境紛争をめぐる政府のちぐはぐな対応ぶりを指摘している。

 社説によると、今回の対立が激化した背景の一つに、SNS上での「過激な国家主義」があるという。社説は「SNSユーザーを監視し、両国間の誤解を助長するような発言やフェイクニュースを意図的に拡散するアカウントは摘発するべきだ」と訴えた。また、政府発表と現地兵士の情報との間に食い違いがあり、国民の混乱が拡大しているとも指摘した。例えば、国境検問所が完全に閉鎖されているのか、時間制限付きの閉鎖なのか、といったことについても、正確な情報が伝えられていないという。
 また社説は、「軍が単独で過激な行動に走ることを許してはならない」と強調したうえで、カンボジア側に交渉のテーブルにつくように促すことを求めている。

タイはカンボジアを軽視か

 一方のカンボジア側では、フン・セン上院議長を筆頭に、愛国心をあおる発言や行動が目立っている。カンボジアは現在、タイからの農産物や燃料の輸入を停止している。カンボジアの英字紙クメールタイムズに掲載された6月30日付の論説記事は、「国境が閉鎖されて以降、タイは一方的に複数の措置を講じているが、その一部はカンボジアがタイに一方的に依存しているかのような誤った認識に基づいている」と批判する。
 記事が例として挙げたのは、カンボジアがタイに電気とインターネットのアクセスを依存している、という説だ。記事は、カンボジアがタイだけでなく、ベトナムやシンガポールなど複数の国々から燃料を輸入していると述べたうえで、「タイからの電力とインターネットサービスを停止しても、カンボジアは数日内に正常化した」と主張。「カンボジアには選択肢がある」と強調した。

           *

 こうした記事から垣間見えるのは、「タイがカンボジアを過小評価している」、または「カンボジアに対して傲慢で高圧的な態度をとっている」という国民感情だ。経済格差がある両国間では、これまでもたびたびこうした感情に基づく対立や摩擦が起きてきた。
 だが今回、国民感情が揺れているのは、カンボジアだけではない。タイ国内では、ペートンタン首相への批判が高まったことにより、その父親であるタクシン元首相派と、反タクシン派の根深い対立の記憶が呼び起こされ、現政権が深いダメージを負う可能性もある。タイ・カンボジア対立の今後の展開が注目される。


(原文)
タイ:
https://www.bangkokpost.com/opinion/opinion/3058832/border-panel-needs-review

カンボジア:
https://www.khmertimeskh.com/501709060/thailands-self-destructive-game-of-threats/

 

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