アメリカの援助削減をアフリカはどう見ているのか
支援への不安と「自立」への期待を若者の声から読み解く
- 2026/8/28
第2次トランプ政権の発足後、アメリカは国際開発庁(USAID)を廃止し、対外援助を大幅に削減しました。医療や食糧支援への影響が懸念されるなか、援助の受け手であるアフリカの人々は、この変化をどう受け止めているのでしょうか。各種世論調査から浮かび上がるのは、支援縮小への強い不安だけでなく、自国政府に責任ある対応を求め、援助への依存から脱したいと考える人々の姿です。
アメリカ在住ジャーナリストの岩田太郎氏が、アフリカで実施された複数の調査がすくい上げた現地の声を基に、援助と自立の現在地を読み解きます。
世界最大の援助国であるアメリカが2025年1月の第2次トランプ政権発足を機に、対外支援の司令塔だった米国際開発庁(USAID)を廃止し、食糧・医療援助を含む大幅な削減に踏み切って1年以上が経過した。
当初からアフリカを拠点とする非営利団体(NPO)などからは、「感染症への対処能力が低下し、次のパンデミックが発生すれば感染や死者が拡大しかねない」と危惧する声が一斉に上がった。

エボラ感染が拡大するコンゴ民主共和国で、乳児を抱く防護服姿の医療従事者 © NTV Kenya /x
そうしたなか、2026年5月には、コンゴ民主共和国やウガンダなど中部アフリカ諸国を中心にエボラ出血熱が発生。コンゴ民主共和国政府の報告によれば、8月23日までに少なくとも5514人が感染し、2642人が死亡した。アフリカでは、2014年から2016年に西部アフリカでエボラが流行し、2万8000人以上が感染、うち1万1000人が死亡した。今回の感染拡大の規模が前回を上回るのか、対策は正念場を迎えている。
感染の拡大を受け、アメリカではトランプ政権の援助縮小を批判する論調も改めて強まっているが、アフリカではこの政策はどう受け止められているのか。
世論調査から見えてくるのは、食糧・医療援助の削減を深刻に受け止める一方、これを機に自国の指導者がアメリカの援助に頼りきるのではなく、医療や食糧危機に主体的に対処することを望む声だ。
この記事では、複数の世論調査を手掛かりに、援助削減をめぐるアフリカの市民、とりわけ若い世代の複雑な受け止め方を読み解く。
エボラ禍があぶり出す医療の脆弱さ
アフリカ諸国では、アメリカや日本ほど頻繁に世論調査が実施されているわけではない。そのなかで長期にわたって同じ質問を繰り返し、「アフロバロメーター」という組織がある。
同組織が2024年と翌2025年にアフリカ38カ国で「自分や家族が病気になった場合、手の届く費用で医療を受けられるのか不安があるか」と尋ねたところ、53%が「とても不安」、21%が「いくらか不安」と回答した。回答者の4人に3人近くが、医療へのアクセスに何らかの不安を抱えていることになる。

アフリカ38カ国の世論調査回答者の合計73%は、手の届く費用で医療を受けられることに対して、何らかの不安を抱いている© Afrobarometer
調査は今回のエボラ流行以前に実施されたものだが、過去1年間に公共病院や診療所で治療を求めた人からは、「なかなか診てもらえない」「医療保険が不十分」「薬剤や医療器具が不足している」といった不満も多く寄せられた。
特に注目されるのは、回答者の10人中7人が、「政府が十分な医療を提供するためなら増税してもよいか」という質問に同意していることだ。国民に医療を提供する第一義的な責任は、援助国ではなく自国の政府にあるという意識がうかがえる。
とはいえ、現実には海外援助への依存度はなお高い。アフロバロメーターの分析では、USAIDや他の先進国からの援助が減少していることへの不安は強く、今回のエボラの流行についても「アメリカの医療支援が削減されていなかったら、感染拡大が抑制されていたのでは」と考える人々が発生国を中心に存在していると見られる。
こうしたなか、人的な被害だけでなく経済への影響も深刻になっている。国連開発計画(UNDP)は7月、財政基盤が弱いアフリカ諸国において最大36億ドル(約5733億円)の損害が見込まれるとの予測を発表した。エボラ禍とイラン戦争によるインフレ高進が重なる最悪のシナリオでは、コンゴ民主共和国だけで7万9000人が失業し、国内総生産(GDP)が1.7ポイント押し下げられると見ている。

国連開発計画(UNDP)の試算によると、エボラ禍とイラン戦争によるインフレ高進が重なった最悪のシナリオでは、コンゴ民主共和国だけで7万9000人が失業し、国内総生産(GDP)が1.7ポイント押し下げられるという © Semafor
こうした懸念は、エボラ流行以前から存在していた。
アメリカ世論調査大手のピュー・リサーチ・センターが2026年春に実施した調査では、「アメリカの人道支援が大幅に縮小、あるいは打ち切られた場合、ガーナでは50%、ナイジェリアでは35%、ケニアでは32%、南アフリカでは30%が「全体的に悪影響がある」と回答している。

ピュー・リサーチ・センターが2026年春に各国で実施した調査によれば、アメリカの援助削減・打ち切りが悪影響をもたらすという懸念は、エボラ流行前から存在していた© Pew Research Center)
自国政府に医療提供への責任を求めながらも、アメリカの援助削減が現実の生活に悪影響を及ぼすことへの懸念は強い。ここに、アフリカが抱える援助をめぐるジレンマが浮かび上がる。
アメリカ依存を見直す若者たち
翻って、アフリカ諸国の将来を担う若者たちは、USAIDの廃止やアメリカの援助削減をどう見ているのだろうか。
南アフリカに拠点を置くイッチーコビッツ・ファミリー財団が2026年7月に発表した「African Youth Survey」は、16カ国の18~24歳、4901人を対象に意識を尋ねている。
まず、USAIDの廃止に関しては、46%が「悪影響がある」と回答した。その割合が特に高いのは、モザンビーク(76%)、ケニア(63%)、ルワンダ(63%)、リベリア(56%)である。

アフリカの若年層を対象にした世論調査では、USAIDの廃止が好影響をもたらすとする回答者がそれなりの割合で存在し、そうした考えを持つ理由が注目される© 2026 African Youth Survey
ここで、前述のピュー・リサーチ・センターの調査でアメリカの援助打ち切りに「悪影響がある」と答えた割合が50%に上ったガーナでは、若者の41%がUSAIDの廃止に「好影響がある」と、真逆の回答をしている。ナイジェリアでも40%に上る。
世代の異なる二つの調査を単純に比較することはできないが、少なくとも若者のなかに、援助削減を必ずしも否定的に捉えず、外部への依存を見直す契機として受け止める層が存在することは注目に値する。
その一方で、援助削減によって最も悪影響を受ける分野については、53%の若者が「医療と疾病予防」を挙げており、成人全体の認識と一致している。援助への依存を見直そうという意識と、医療分野ではなお海外支援が必要だという現実認識は、若者のなかで必ずしも矛盾していない。

アメリカの援助削減により、どの分野が最も悪影響を受けるかとの設問に対し、アフリカの若者の中で最も多かった回答は、医療と疾病予防であった © 2026 African Youth Survey
トランプ政権とどう向き合うのか
では、援助削減を断行したトランプ政権そのものを、アフリカの若者たちはどう見ているのか。
調査では、42%が「自国の指導者はトランプ大統領に対して立ち上がり、国益を守るべきだ」と回答しており興味深い。南アフリカでは71%、ブルキナファソでは54%、ソマリアでは51%に上った。
他方、それを上回る52%が、「相違があってもわが国はトランプ大統領と強調する道を探るべき」だと回答している。トランプ政権と対立することで生じるデメリットが、メリットを上回るとの冷静な読みがあるのかも知れない。こうした現実的な答えをした若者が多かったのは、今回のエボラ流行の中心となっているコンゴ民主共和国の71%、隣国コンゴ共和国で65%、ナイジェリアとモザンビークで64%となっている。

アフリカの若年層のトランプ政権に対する見方については、対立を厭わない国と、現実的な協調路線を選ぶ国に分かれている © 2026 African Youth Survey
この背景には、エボラ感染拡大に苦しむコンゴ民主共和国にアメリカが医薬品や医療器具、感染監視ネットワークの整備、各地の180の診療所への支援金など、総額5億1200万ドル(約816億円)に上る巨額の緊急支援を行っていることも挙げられよう。
なお、マルコ・ルビオ国務長官は、支援の理由として、エボラによる死者を防ぐことと同時にアメリカ国内への感染流入を防ぐことを挙げており、人道支援とアメリカ自身の安全保障が重なっていることが分かる。
コンゴ民主共和国は、トランプ政権が対中競争を念頭に進める鉱物資源協力の意味でも重要な国であり、アメリカにとって同国の安定は、公衆衛生のみならず国家安全保障上の意味も持っていると言える。
アフリカが「援助の先」に求めるもの
では、「USAID後」、「エボラ後」のアフリカで、若者たちは何を求めているのだろうか。
「African Youth Survey」で、アフリカの発展に最も重要なものを尋ねたところ、最も多い27%が「賃金水準の高い新規雇用を生み出すこと」、次いで25%が「政府の腐敗を減らすこと」、18%が「基本的なニーズが満たされ、きちんとしたサービスが受けられること」を挙げている。

アフリカの若者は、賃金水準の高い新規雇用や、基本的なニーズが満たされ、きちんとしたサービスが受けられる国づくりを求めている。© 2026 African Youth Survey
若年層の失業率が極めて高いアフリカ諸国において、人々が求めているのは、援助だけではない。やはり自国の政府や企業が良い仕事を創出し、行政サービスを提供し、パンデミックや災害などの危機が起きた時に自ら対応できる堅固な体制をつくることで人間らしい生活が送れる社会をつくることだ。

コンゴ民主共和国のエボラ感染地域における消毒の光景 © SABCNews / x
アメリカの援助削減は、医療や食糧支援の現場に深刻な影響を及ぼしており、その痛みを軽視することはできない。
しかし、世論調査から浮かび上がるアフリカの人々の声は、「援助を続けてほしい」という一方向のものでもない。必要な支援は求めるが、自国政府には責任を果たしてほしい。そして、いつまでも外部の援助に左右されない社会をつくりたいという、国際的な自立を渇望しているように映る。
援助削減という厳しい現実のなかで問われているのは、アメリカが今後、どこまで支援を続けるかだけではない。アフリカ各国が、自らの医療、雇用、行政を支える仕組みをどう築いていくのかという、より根本的な課題なのではないだろうか。
(いわた・たろう)在米ジャーナリスト。米NBCニュースの東京総局、読売新聞の英字新聞部、日経国際ニュースセンターなどで金融・経済報道の基礎を学ぶ。現在、米国の経済や政治を広く深く分析した記事を『週刊エコノミスト』などの紙媒体に発表する一方、『JBpress』や『ビジネス+IT』など、多チャンネルで配信されるウェブメディアにも寄稿。好きな動物はうさぎ、趣味はドライブ、好物は寿司と辛口の清酒。『リテラ』でも『産経新聞』でも好き嫌いせずに読む。












