民主主義の実現を阻む壁
タイの未来を変える若い世代の力に期待

  • 2019/7/16

真の民主主義が育つ日

 では、タイは今後、リベラルな民主主義を手にすることはできないのだろうか。そう尋ねると、専門家たちは皆、「そんなことはない」と口をそろえる。なぜなら、自由と責任ある支配者を求める世界的な潮流から、タイもまた、逃れられないからだ。「しかし、それは大変に難しく、少なくとも、あと20年はかかるだろう」と彼らは予測する。鍵をにぎるのは、若い世代だ。

 前出のウボンラチャタニ大のティティポン氏は、「われわれが民主主義を受け入れる準備ができていない、という議論は今すぐやめるべきだ。民主主義は他者に与えられるものではなく、自身の中に育つものなのだ」「民主国家への道は、立ち止まることなく、前に進み続けるしかない」と主張する。さらに同氏は、「教師の日」のパレードに参加した高校生たちが軍事政権を風刺したプラカードを掲げて行進していたことを挙げ、「5年にわたり続いた軍事政権も、若い世代の考え方を支配することはできなかった」との見方を示した。

 また、スコータイ・タマティラット・オープン大学のユタポーン氏は、「タイの政治は、今は疑似的な民主主義にしか見えなくても、これから50年の間に前向きな方向に発展していくだろう」と予測する。さらに、年齢層に関係なく多くの人々が政治に関心を持ち始めていることにも触れ、「社会のダイナミズムと圧倒的な技術革新によって現在のタイ政治は近いうちに崩壊し、前向きな変化が現れるだろう」と言う。

「白馬の騎士」は現れない

 その一方で、ユタポーン氏は、「白馬の騎士が現れて民主主義を実現してくれるなどと考えるべきではない」とも警告する。「完全なる民主主義の実現は、タイ国民自身にかかっている。民主主義は民衆だけが創造できるのであって、支配者でもメカニズムでもない」「だからこそ、タイの人々は、お互いが兄弟として共に生きる<フラタニティ>という考え方を常に持ち続けていなければならない。分断されるのではなく、自分とは違う意見も聞き、学び合わなければならない。それが民主主義の基本である」と熱く訴える。

 「<勝者が独り占めする>という考え方がタイ政治に長くはびこっていることが、社会の分断を招いている」と指摘するのは、キング・プラジャディポック研究所のスティトーン氏だ。同氏は、「完全なる民主主義を実現するカギをにぎるのは、パワーバランスの考え方だ。権力を分け合い、すべての人が恩恵を受けるようにすることが大切だ」とした上で、「時に勝者がすべて独り占めすることがあっても、彼らはいずれすべて失うだろう。そして、敗者もいつか勝者になるのだ。だからこそ、順番を待つべきなのだ」と言う。今は多数派でも、いつかは少数派になるかもしれないし、その逆もまた真なり、なのである。

(原文:http://www.nationthailand.com/opinion/30371936)

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