バングラデシュ暫定政権が始動 国が回復するまで数十年か
独裁からの脱出に各国が寄せる期待と懸念
- 2024/9/9
バングラデシュで、ノーベル平和賞受賞者のムハマド・ユヌス氏を最高顧問とする暫定政権が発足した。
同国では、公務員の特別採用枠に抗議する学生らが警察と衝突し、多数の死傷者が出るなど混乱が続いていた。8月5日には、強権的な統治を続けていたハシナ首相が辞任に追い込まれ、国外に逃亡。新たに発足した暫定政権の最高顧問には、「学生らの要請を受けた」としてフランスに滞在中だったユヌス氏が選ばれ、8月8日に就任式が開かれた。
国際社会からは好意的な反応
バングラデシュの英字紙デイリースターは、8月11日付で「バングラデシュの政権移行に関する世界の反応」と題した社説を掲載した。
社説は「国際社会がユヌス氏率いる暫定政権に協力すると表明してくれている。私たちはこの反応に励まされている」として、好意的な国際世論への喜びを示す。というのも、暫定政権は、経済の立て直しをはじめ、国の再建という「国際社会も認める大きな課題」を背負っているためだ。社説は、「バングラデシュは国民のための民主的な未来を描く長い旅路を歩き出そうとしている。不確実ながらも希望に満ちたこの道を歩むにあたって、暫定政府の役割は軽視できない」として、暫定政権の責任の重さを指摘した。
さらに、今後、暫定政府が治安の回復や秩序の安定、抗議活動の被害者への説明責任を果たしていくことなどを前提に、「経済面などで国際社会の“実質的な支援”が必要だ」と強調している。
「南アジアのスター」誕生ならず
隣国インドの英字メディア、タイムズオブインディアは、8月5日付の社説で「ハシナ前首相は自ら失脚の種をまいた。しかし、彼女の退場はインドにとっても大きな問題だ」と主張した。ハシナ氏は失脚後、インドに逃れている。
社説は、バングラデシュについて「南アジアの悲劇」だと表現する。さらに、「10年半におよぶハシナ政権の任期には多くのプラス面があった」と述べ、ハシナ政権下でバングラデシュが目覚ましい経済成長を遂げたことを評価。「この路線を続けていれば、正真正銘、南アジアのスターとして頭角を現していただろう」と述べ、その成果を強調した。
その一方で、社説は、ハシナ前首相が「国内政治への対応」でつまずいた、と指摘する。野党への厳しい弾圧の結果、総選挙では「最大野党が不在」となり、投票の選択肢を失った国民の不満が最終的に街頭抗議行動へとつながったというのだ。そこに新型コロナの感染拡大やウクライナ戦争などの外的要因による失業危機や生活苦が重なり、「完璧な嵐」が起きたと分析した。
ハシナ政権中、インドとバングラデシュの関係について、社説は「これまでにないレベルで密接だった」と高く評価しているが、「バングラデシュが混乱に陥れば、2国間の関係もリセットせざるを得ない」としており、インド側は暫定政権の動向を見守っている形だ。
経験者が語る「独裁政権からの脱却」の難しさ
インドネシアの英字紙ジャカルタポストは8月14日付の社説で、ハシナ前首相の退陣と、1998年まで32年間にわたりインドネシアを支配したスハルト元大統領を重ね合わせて論じた。
社説は、「ハシナ氏の失脚後、バングラデシュは数カ月のうちに総選挙に向けて道筋をつけることが期待されている。だが、1998年のインドネシアをはじめ、独裁政権から脱却した国々の経験から考えれば、ハシナ氏がバングラデシュに与えたダメージは非常に大きく、完全に立ち直るには数年、いや数十年かかるだろう」と、指摘する。
さらに、社説はその理由として、インドネシアではスハルト大統領の「独裁政権」が終わった後も取り巻きが依然として政界に残り、政策決定において大きな影響力を有しているうえ、経済界においても、大統領の支配下で繁栄した実業家たちが今も経済を牛耳っていると述べ、汚職や権力の乱用が依然として横行していると指摘した。
「インドネシアがたどってきたように、ハシナ氏の失脚は国の回復の始まりに過ぎず、その回復には、痛みや犠牲を伴う可能性がある。私たちは、バングラデシュが、より早く、より良い復興を遂げることを願っている」
(原文)
バングラデシュ:
https://www.thedailystar.net/opinion/editorial/news/global-response-bangladeshs-transition-3673836
インド:
https://timesofindia.indiatimes.com/blogs/toi-editorials/banglamess/
インドネシア:
https://www.thejakartapost.com/opinion/2024/08/14/like-soeharto-like-hasina.html