ミャンマー軍との「対話」をめぐり揺れるASEAN外交
インドネシア紙は外交打開に期待、ミャンマー独立系メディアは「罠」を警告
- 2026/8/9
2021年のクーデターから5年余り。内戦が続くミャンマーをめぐり、東南アジア諸国連合(ASEAN)がミャンマー軍との対話を模索する動きを強めている。報道によれば、フィリピンで7月21日に開かれた外相会合で主要な課題の一つとされたミャンマー問題について、インドネシアが「建設的な関与を継続する」と述べたことが明らかになった。
2021年にクーデターが発生したミャンマーでは、軍による国民の弾圧や、少数民族勢力との衝突などが今も続いている。ミャンマー軍は昨年12月から今年1月にかけて民主派を排除して「総選挙」を強行し、クーデターを主導したミンアウンフライン氏が大統領を名乗っている。
ASEANはクーデター以来、ミャンマー軍を正式な政権と認めず、ミャンマー軍が任命した閣僚の首脳会議などへの出席を認めてこなかった。インドネシアもまた、これまでミャンマー軍との対話に慎重だった。そんな同国が態度を軟化させた背景には、膠着状態の打開に向け指導力を発揮したいという思惑があるように思われる。
インドネシアが主張するように、膠着した状況を動かすために対話は必要なのか。民主派を排除したまま対話を進めることは、ミャンマー軍にいたずらに正当性を与えるのではないか――。インドネシア紙とミャンマーの独立系メディアは、ASEANの新たな動きを対照的な視点から論じた。

ASEAN首脳会議に出席したインドネシアのブラボウォ大統領(2026年5月8日撮影)(c) Presidential Communications Office of Indonesia / wikimediacommons
膠着状態の打開を狙うインドネシア
インドネシアの英字紙『ジャカルタ・ポスト』は7月17日付の社説で、ミャンマー問題をめぐり、プラボウォ政権がASEANのなかで指導力を発揮するよう求めた。
社説はまず、インドネシアが伝統的に東南アジアの地域外交で大きな役割を担ってきたにもかかわらず、プラボウォ大統領はこれまでのところ「地域情勢から著しく距離を置いているように見える」と指摘する。大統領は各国への外遊を重ねているものの、ASEAN外交で目立った成果を上げていないというのだ。
その一方で、ミャンマーについては、ASEAN内で温度差があると指摘する。軍部によるクーデターや内戦を基本的に「内政問題」とみなすメコン川流域国と、地域の安全保障を脅かしており集団的な対応が必要だとするインドネシアなどに分かれているというのだ。国際的に孤立したミャンマーは、ロシアやインドとの戦略的関係を維持しつつ、中国への依存を急速に強めているという。
社説は、ミャンマーにとってASEANに正式に迎え入れられることは、外交的孤立から脱する「唯一の現実的な道」だと指摘する。そして、ASEAN側にも、域内における中国やロシアの影響力がこれ以上強まるのを避けるためにも、膠着状態の打開が必要だという見方に傾きつつある、と読み解く。
実際、インドネシア政府はミャンマーへの働きかけを強めている。6月にはスギオノ外相をミャンマーに派遣し、大統領を名乗るミンアウンフライン氏と会談させた。さらに7月12日にバンコクで開かれた非公式外相会議には、軍政下で外相に就いているティンマウンスエ氏が、クーデター後、初めて参加した。
社説は、「インドネシアこそが、組織的な人権侵害と広範な内戦に苦しむミャンマー国民を支える取り組みの最前線に立つべき」だと主張。ASEANを結束させることができれば、プラボウォ政権は人権などの「原則」を守りながら、地域の安定という「現実」にも対応する外交力を示せるだろう、と期待を示している。
「また同じ罠に陥る」 軟化を警戒する声
では、民主化を求めるミャンマーの人々にとって、ASEANの動きはどう映っているのか。
タイを拠点に、ミャンマー人らが運営する独立系のメディア、イラワジは、7月16日付の社説で、バンコクで開かれた非公式外相会議について、ASEAN側が「ささやかながらも前向きな第一歩」と位置付けていると紹介。その一方で、「ASEANはまた、おなじみの外交的な罠に陥りつつあるのではないか」と、強い懸念を示した。
同紙によると、ミャンマー軍側はこの会議において、少数民族武装組織と対話する用意はあるとしながらも、民主派が樹立した「国民統一政府(NUG)」との対話は拒否したという。また、「恩赦」を受けたものの今も行方が分からず、健康状態への懸念が続く民主化指導者アウンサンスーチー氏についても、軍側は「彼女は親族であり、姉妹であるため、われわれが面倒を見る」と説明したという。
こうした発言について、イラワジ紙は「いつもの文句の繰り返しに過ぎない」と批判する。同紙がとりわけ警戒するのは、ASEANが「対話」を進めることで、国軍が求めてきた政治的な正当性を結果的に与えてしまうことだ。「NUGや、抑圧された国民は、政権に不当な正当性を与えることを依然として強く拒否する」と強調し、ミャンマー軍との関与を深めようとしているASEANに対し、慎重な対応を求めている。
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ASEANが5年以上にわたるミャンマーの膠着状態を打開するうえで、実質的にミャンマーを支配する軍との接触を避け続けることは難しい。とはいえ、民主派を排除したままミャンマー軍との関係を正常化すれば、クーデター以来、一貫してASEANが掲げてきた原則そのものが揺らぐことになる。二つの社説から浮かび上がるのは、「対話」と「正当化」の間で揺れるASEAN外交の難しさだ。












