米国の銃規制の厳格化をアジアはどう見ているか
タイのシンガポールの社説が報じる銃規制のあり方

  • 2022/7/6

 アメリカのバイデン大統領は6月25日、銃規制強化の法案に署名した。21歳未満の銃の購入者に対する審査の厳格化などを含む銃の規制法だ。これほど本格的な銃規制法がアメリカで成立するのは、28年ぶりだという。背景には、国内で相次ぐ銃乱射事件がある。これに前後して、アジア各紙も、銃規制について考える社説や、「アメリカへの視線」を綴る社説を掲載した。

米国で相次ぐ銃犯罪を受けた規制強化の動きについてアジアでも関心が高まっている (c) Specna Arms / Pexels

公務員向け優遇制度の悪用が横行

 タイの英字紙バンコク・ポストは、6月20日付で「銃規制を見直せ」という社説を掲載した。1週間ほど前にタイ国家警察がバンコクを含む5県で一斉に銃密売の取り締まりに踏み切ったことがきっかけだが、結果的に、銃取引の主犯格や公務員など、密売に絡んでいた16人が逮捕され、数十に上る銃や武器が押収された。
 「押収された武器は、国家警察が大宣伝して報道陣に公開された。しかし、ある重要な点が警察発表では触れられていない。押収された銃の多くが、国が実施している福利厚生制度を利用して購入されたという事実が明らかにされていない」
 社説によれば、この福利厚生制度は、公務員たちが自己防衛用の銃を市場価格より安価で購入できるように、約10年前に始まったという。この制度を適用したい政府機関は、担当部局を通じて申請し、銃販売店や輸入業者などにまとめて発注する。「つまり政府の担当部局こそが、タイで国内最大の銃輸入組織なのだ」
 その一方で、銃販売店には一店あたり銃30丁という輸入規制が課せられており、これによって市販の銃価格が押し上げられている。社説は「銃の密売組織はこの制度を利用し、公務員だと名乗り銃を安く購入していた」と指摘する。
 さらに社説は、この事件を例にタイの銃規制が抱える矛盾点について指摘した後、次のように述べた。
「公務員に銃を安価に供与する制度が、本当に銃犯罪の抑止につながっているのであれば、もちろんこの制度は続けるべきだ。しかし、実際には、この制度は長年にわたって本来の目的とは違う利用のされ方をしている」

「規制法の厳格化はゴールではない」

 シンガポールの英字紙ストレーツタイムズは6月20日付で、「米国は銃による悲劇的な暴力に立ち向かわなくてはならない」と題する社説を掲載した。
 社説は、「マクドナルドからアイフォン、ジーンズから最新のハリウッド映画まで、アメリカのソフトパワーは、今なおアジアを席巻している」とした上で、「しかし、相次ぐ悲劇的な銃撃事件は、アメリカの国際的な信望を傷つけている」と指摘。アメリカへのまなざしを紹介している。
 社説は、「アメリカでは、今年に入ってすでに1万9300人が銃犯罪により命を落とした。これほど市民が銃を所持している国はほかにない」とした上で、「内戦が続くイエメンですら、市民の銃の所持率はアメリカを下回っている」と指摘する。また、ようやく同国で銃規制法が厳格化されることになったことについて、「前進する動きだ」と評価する。
とはいえ、バイデン大統領自身が認めるように、新しい法律にも、殺傷力が高い銃の扱いなど、踏み込み不足の面は多い。また、国民の意見も割れている。2021年4月に銃乱射事件が起きた直後に実施されたアンケートでは、銃規制の厳格化に賛成した国民は53%にとどまった。
 その上で社説は、最近、上院で銃規制に反対していた共和党議員たちの一部が賛成に回ったと指摘。「これを受けた下院の動きが、今後の焦点になる」との見方を示した。社説が指摘する通り、今回は下院でも共和党議員14人が賛成に回ったため、法案が可決された。
 しかし、法律はゴールではない。社説は、「アメリカはこれまで、教育、イノベーション、商業など、あらゆる面で世界の中心として名を馳せていた。しかし、相次ぐ銃犯罪によって、いまや、生活の面でも、観光や出張の上でも、危険な国になりつつある」と指摘している。

 

(原文)
タイ:https://www.bangkokpost.com/opinion/opinion/2329578/gun-control-needs-review

シンガポール:https://www.straitstimes.com/opinion/st-editorial/the-straits-times-says-us-needs-to-act-on-tragic-gun-violence

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