ウクライナのクレバ外相の発言にインドが反発
域内の国益の保護と深刻化するグローバルサプライチェーンへの影響のはざまで

  • 2022/9/16

(c) Alex Rusin / Pexels

ロシア産原油や天然ガスの輸入を巡って

 ウクライナのクレバ外相の発言に、インドのメディアが反発した。インドの英字紙、タイムズオブインディアは、8月18日付の社説で「ウクライナ外相のインドへの批判は、地政学的な現実を欠いている」と題し、クレバ外相の発言を批判した。
 同紙によると、クレバ外相は、インドが輸入している原油の一部は「ウクライナ国民の血だ」として、現在もロシアからの輸入を続けているインドを批判したという。
 「ウクライナは今、ロシアの侵攻により悲惨な状況にある。それゆえ、インドを批判するのももっともだと言えるだろう。しかし、外相としては、それぞれの国が自国の利益というものを考えなければならないことも理解する必要がある。インドの外交や経済は、まずインドのためになるものでなければならない。理屈は簡単だ。原油価格が1ドル上がるごとに、インドの輸入価格は21億ドル上がるのだから」
 社説はこのようにインド側の苦しい事情を説明する。そして、ウクライナを支援する一方で、ロシアから天然ガスを購入し続ける欧州諸国の現状に触れ、「こうした状況について、ウクライナ政府が欧州諸国を批判するのは聞いていない」と、不公平さを指摘した。ウクライナは、インドが欧州諸国のようにウクライナを支援していないために批判しているのだろう、ということだ。
 そのうえで社説は、「欧州諸国がウクライナを支援するのは、ロシアの侵攻が欧州にとって安全保障上の直接的な脅威であるためだ」と指摘し、「インドは同じ船には乗っていない」と述べて、クレバ外相の批判は地政学的な立ち位置の違いを無視している、との見方を強調した。
 とはいえ、社説はかねてより、インドが軍事的にロシアに依存しすぎていることに懸念を示しており、必ずしもロシアとの関係を是としているわけではない。今回も、「ロシアへの軍事兵器依存は縮小しなければならない。また、ロシアと中国がインド太平洋地域における我が国の権益を脅かすようなことがあってはならない」との認識と懸念点を示している。

注目されるG20首脳会合の参加国
 ウクライナ情勢が一向に変化を見せないなか、今年11月にインドネシアのバリで開かれるG20首脳会合には、ロシアのプーチン大統領や中国の習近平国家主席が、米バイデン大統領らとともに姿を見せるかもしれない。
 G20の議長国であり、東南アジアから唯一の加盟国でもあるインドネシアは、プーチン大統領や習近平国家主席が同会議に出席する予定であることを明らかにしている。プーチン大統領の出席については、米国などが強く「排除」を求めたが、インドネシアは応じず、「すべての国を招待する」という姿勢を崩していない。これに対し、米国は「それならウクライナのゼレンスキー大統領も招くべきだ」と提案しているという。
 こうした状況を受け、シンガポールの英字紙ストレーツ・タイムズは8月24日付の社説で、「G20は国際的な団結と行動の機会だ」と題し、「G20首脳会議は、われわれが今、直面している課題に真摯に向き合い、行動をする絶好の機会だ」と説いた。
 社説は「G20は、世界経済の約80%を占める国々の集まりだ。ロシアのウクライナ侵攻から半年が経過したが、ロシアの軍事作戦も、同時に、ロシアに対する制裁も、どちらも思い通りの結果を出していない」と指摘したうえで、「この戦争によって10万人以上の人々の命が奪われ、世界経済が減退し、インフレが起こり、食料不足が起き、世界のサプライチェーンにも多大な影響が及んでいる」と、列挙する。
 社説は、中国の習近平国家主席が「異例の3期目」入りを果たすかどうかが注目されている10月の中国共産党大会や、11月の米国の中間選挙の直後というタイミングでG20が開催されることに言及したうえで、「これらの問題解決に取り組む姿勢をアピールするには絶好の機会だ」と述べている。
 

(原文)
インド:
https://timesofindia.indiatimes.com/blogs/toi-editorials/blood-oil-security-ukraine-foreign-ministers-critique-of-india-misses-some-obvious-geopolitical-realities/

シンガポール:
https://www.straitstimes.com/opinion/st-editorial/the-straits-times-says-g-20-opportunity-for-unity-global-action

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