安倍元首相の国葬をアジアはどう報じたか
シンガポールとインドの紙面が映し出す日本社会の今

  • 2022/10/9

 奈良県内で参院選の応援演説中に射殺された安倍晋三元首相の「国葬」が9月27日、東京都内の日本武道館で開かれた。国内外からの参列者は4000人余りに上ったという。アジアの国々は安倍元首相の国葬についてどんな報道をしたのだろうか。

安倍晋三元首相の国葬が行われた日本武道館を後にする参列者たち(2022年9月27日撮影)(c) 代表撮影/ロイター/アフロ

決定をめぐる手続きが欠如」

 最も手厚く報道したメディアの一つは、シンガポールの英字紙ストレーツタイムズだ。同紙は、東京に特派員を派遣しており、葬儀の様子や日本人の反応を拾い上げながら記事にしている。このほか、元外交官の安倍氏が政治面、および経済面に与えた意味についての論考や、同紙編集者による「サムライと歌:武道館の安倍晋三」というコラムを掲載。特に、このコラムでは、武道館がサムライ・スピリッツを醸成する日本の武道場であると同時に、1960年代以降は、ザ・ビートルズをはじめ、多くの外国人ミュージシャンの公演の舞台になったことを端緒に、「安倍晋三」という政治家が日本にもたらそうとしたことについて考察した。ユニークな、かつ、日本文化と政治に精通した書き手であることがうかがえる。
 ストレーツタイムズは、これまでの社説を見る限り、安倍元首相の政治的な存在感を高く評価してきた。第二次世界大戦における日本の戦争犯罪について、シンガポールをはじめ、アジアの人々の心にいまだに解決されない問題があることを認めながらも、安倍元首相が提唱した米、豪、インド、日本による「クアッド」の枠組みを高く評価し、「東南アジア地域の安定を期待するシンガポールにとって重要な地域連携である」との見方を示した。
 その一方で、同紙は、安倍元首相の国葬が、日本国内の世論を二分していたことも、もちろん認識している。9月28日付の記事では、日本がこれまであいまいだった国葬に基準を設けるというストレートニュースを特派員が書いている。
 「日本政府によれば、9月27日の国葬には4138人が参列し、2万5889人の一般国民が献花に訪れた。しかし、世論調査を見ると、少なくとも10人に6人がこの国葬に反対している。葬儀当日には、平和的な抗議行動が日本各地で行われた。安倍元首相自身が賛否二分する政治家であったことや、その後、半分以上の自民党議員が元統一教会と関係していたことが明らかになったことを差し引いても、国葬の決定をめぐる手続きに明白な欠如があったために、葬儀をめぐる議論が過熱した」
 「戦後の日本で国葬が行われたのは、吉田茂元首相に次いで2回目だった。日本の首相で唯一、ノーベル平和賞を受賞した佐藤栄作元首相や、中曽根康弘元首相が亡くなった時にも国葬は行われず、葬儀は今回より小規模に行われた」

「分断された国家の混乱が浮き彫りに」

 インドの英字紙、タイムズオブインディアは9月27日、国際的なニュース配信会社AP通信の記事を掲載した。AP通信の記事は、安倍氏の国葬を「militaristic funeral」と表現し、国葬をめぐり世論が二分したことに焦点を当てて、「各国はこれまで日本のことをミドルクラスが社会的な平穏を保ち共存している単一国家だと見ていたが、安倍元首相の国葬は、分断された国家の混乱を浮き彫りにした」と、報じた。また、この記事では、この分断の背景には、安倍氏が牽引した改憲論があると指摘している。
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 アジアの国々にとっては、安倍氏の国葬が、偶然にも時を同じくした英国の前女王、エリザベス二世の国葬の様子とも相まって、「日本の今」を映し出す格好の鏡となったようだ。
 日本は今、世界からどう見られているのか。安倍氏の葬儀を社説で採り上げたアジアの新聞がほかにあまりないことも、一つの状況を示していると言えるのではないか。 

 (原文)
インド:

https://timesofindia.indiatimes.com/world/rest-of-world/abes-militaristic-funeral-captures-japans-tense-mood/articleshow/94481260.cms

 

シンガポール:

https://www.straitstimes.com/asia/east-asia/japan-plans-to-set-criteria-for-state-funerals-after-controversial-abe-send-off 

 

 

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