バングラデシュで「ユヌス政権」が始動
いまだ不安定な国の船出に賛否両論
- 2024/10/19
2024年8月、バングラデシュで15年間続いたハシナ政権が崩壊し、暫定政権が発足した。8月8日には、暫定政権の首席顧問としてノーベル平和賞受賞者のムハマド・ユヌス氏が就任した。
ハシナ前政権が崩壊する端緒となったのは、7月に始まった公務員採用の特別枠に反発する学生たちの大規模デモだ。これが長年の強権政治に対する激しい抗議行動へと発展すると、デモ参加者と警察との間で衝突が相次ぎ、150人以上が死亡したとも言われる。多大な犠牲を経て、ハシナ前首相はインドへ逃亡。貧困層への小口融資「グラミン銀行」で知られるユヌス氏が、学生たちの依頼を受ける形で暫定的な新政権を担うことになった。
ユヌス氏が掲げた6つの「改革の柱」
バングラデシュの英字紙デイリースターは、9月13日付で「暫定政権の改革アジェンダに見る希望」と題した社説を掲載した。
社説は、9月11日にユヌス氏が国民に向けて発表した改革への考え方について、「満足できる内容だ」と、期待を示した。ユヌス氏が据えた「改革の柱」は、司法、選挙制度、行政、警察、反汚職委員会、憲法、の6つで、それぞれに委員会を設置し、3カ月で国家システムの再構築を目指す、としている。
ユヌス氏はまた、「これらの改革はバングラデシュにおいて、ファシズムや権威主義の復活を防ぐために不可欠だ」としており、社説はこれに対しても同意した。一方で、社説は次のように釘を刺す。「改革を実行するにあたり、暫定政権が国民に対して透明性を確保することを望む。国民は、残忍な弾圧によって政権にしがみついたハシナ政権に対して必要だった血なまぐさい暴動を、もう二度と目撃したくないのだ」。
また、経済については、現在も労働者の抗議活動と工場の閉鎖が続いており、国内経済が停滞していることを懸念。「労使双方が歩み寄って解決策を見出せるよう、暫定政府は話し合いを促し、双方を仲介する建設的な役割を果たしてほしい」と求めている。
隣国インドはイスラム過激派の復活を懸念
極めて好意的、かつ期待に満ちたバングラデシュ紙の社説とは対照的に、ハシナ前首相と良好な関係にあった隣国インドの新聞は、暫定政権に厳しい目を向けた。インドの英字メディア、タイムズオブインディアは、9月1日付で「変転するダッカ」と題した社説を掲載した。
社説はまず、「ハシナ前首相の退陣後、新政権が”過激派の復活”を許している」と指摘。「ここ数日、バングラデシュの政権交代は、憂慮すべき過激な方向へと進んでいる。少数派(ヒンズー教徒)とその財産が攻撃されたという報告もあった」と述べる。
さらに、ハシナ前政権と近かったジャーナリストが「標的にされているのではないか」との念を示し、そうしたジャーナリストのうち2人が国外脱出を試みて逮捕されたことも付け加えた。また、暫定政権は「テロ組織とつながりのあるイスラム過激派の活動家たちを釈放した」とも指摘している。
社説は、ハシナ氏が確かに「事実上、独裁者となっていた」としたうえで、「しかし彼女は、過激派を抑制し、反インド勢力に自由な行動を許さなかった」と評価する。ハシナ政権の崩壊によって、インドの安全保障上の懸念が高まりつつある、という指摘だ。
「バングラデシュがイスラム過激派の拠点となることは、なんとしても避けなければならない。もしそうなれば、インドにとって危惧すべき事態となる。今、進むべき道を誤れば、暫定政権が主導しているはずの人権と正義のための闘いが台無しになることは間違いない。過激派を阻止できないとしたら、ユヌス氏は単なる操り人形に過ぎないということだ」
(原文)
バングラデシュ:
インド:
https://timesofindia.indiatimes.com/blogs/toi-editorials/dhaka-takes-a-turn/