デング熱、チクングニア熱が大流行 イノベーションで命を守れ
「蚊を殺す」だけでは間に合わない アジア各国で政府の緊急対応を求める声
- 2024/10/22
アジア各地でデング熱が流行している。デング熱は蚊を媒介とした感染症で、定期的に大流行が発生している。
フィリピン、デング熱の感染者20万人を突破
フィリピンの英字紙デイリーインクワイアラーは9月15日付の社説で、「デング熱への対策を最優先に」と主張した。
社説によると、フィリピンでは雨期の洪水などの影響で、デング熱の感染者数が週に6,000人近くにまで上っている。これは、直近の全国的な流行が宣言された2019年の5,100人を上回る数字だという。また、1月から9月初旬までの感染者数は、累計で20万人を超え、そのうち546人が死亡した。この感染者数は、前年同期の約12万件と比べると、約7割も増えていることになる。
保健省は全国的なデング熱の流行を宣言する見込みだというが、「それでは遅すぎる」と社説は指摘する。「毎週の感染者数は、すでに警戒すべき数に達しているが、政府の対応には緊急性が感じられない」
社説はフィリピンの取り組みを例にあげ、フィリピン政府が少なくとも5年前から、蚊の繁殖地を探し出して駆除していることや、感染多発地帯での殺虫薬の散布などを実施していることを評価。しかし一方で、アジア各地で効果が出ている、デングウイルスの媒介を防ぐ「ボルバキア菌を保有する蚊」の活用は、まだ計画段階であると指摘。迅速な行動が不可欠だ、と強調した。
さらに専門家の話として、デング熱対策には従来のように「蚊を殺す」ことでリスクを減らすだけでなく、ワクチンの開発など、革新的な戦略や国際的な協力が必要だと主張した。
パキスタンで流行する「チクングニア熱」とは
今年、デング熱と並んで流行が懸念されているのが、同じく蚊が媒介するウイルス性感染症、チクングニア熱だ。日本では聞き慣れない病名だが、アジア・アフリカなどの熱帯地域を中心に、年々感染者数が増加している。パキスタンの英字紙ドーンは9月23日付の社説で、このチクングニア熱についてとり上げた。
社説によると、パキスタン国内の多くの地域では現在、デング熱と並び、チクングニア熱が流行している。症状はデング熱やマラリアとよく似ており、ある病院では、デング熱やマラリアを疑って受診した患者の8割近くがチクングニア熱だったという。
社説は、パキスタンにはチクングニア熱のワクチンはなく、感染拡大を抑える唯一の方法は、「蚊の数を抑制すること」だと主張する。具体的には、蚊の繁殖に適した環境をつくらないように、排水やごみ収集、リスクの高い地域での殺虫剤散布などを行う必要がある、という。また、対策を政府や保健当局に任せるのではなく、市民も屋外の水がたまった容器を空にしたり、ゴミを適切に処分したりする努力が求められる、としている。
社説はさらに、「チクングニア熱だけでなく、マラリア、デング熱、ジカ熱など、蚊が媒介する感染症が、パキスタンでこれほど猛威を振るっていることを考えると、蚊の遺伝子を組み換えてウイルスを媒介できなくするなど、より新しいアプローチが必要とされている」と指摘した。フィリピン紙同様、従来のような「蚊を殺す」だけの対策ではなく、より革新的な技術や研究に投資する必要がある、との主張だ。
デング熱もチクングニア熱も、日本では聞き慣れない感染症だ。しかし地球温暖化の影響により、やがて日本でもこうした感染症が「当たり前」に存在するようになる可能性は高い。蚊を媒介とする感染症は、もはや途上国特有の病ではない。そうした認識に基づき、日本も対策や研究により積極的に協力をするべきではないだろうか。
(原文)
フィリピン:
https://opinion.inquirer.net/176830/make-dengue-top-health-priority
パキスタン:
https://www.dawn.com/news/1860545/chikungunya-threat