中国の「パックスシニカ」に翻弄される世界
見透かされた日本の曖昧な覚悟と迫られる踏み絵

  • 2021/4/26

100年の変局期

 とはいえ、この習近平演説で一つだけ「なるほど」と納得できる点もある。今の時代を「100年の変局期」だととらえる時代の読みである。
 新型コロナウイルスのパンデミックが収束しつつある今日、国際社会における米国の影響力は相対的に低下し、良くも悪くも中国の影響力が台頭している。国際社会は今後、米国を機軸とする自由で開かれたインド太平洋圏に入るのか(パックスアメリカーナモデル)、それとも一帯一路朋友圏に入るのか(パックスシニカモデル)という踏み絵を踏まされ、二つの陣営に分かれていくと見られている。今回の演説は、そうした時代の潮目の変化をとらえた中国の覚悟を示しているという意味でも注目される。
 そう考えると、問題はむしろ、同じように時代の潮目をとらえたものであるべき日米共同声明にある。日本はこの声明によってパックスアメリカーナを積極的に支える核であることを自ら宣言したにも関わらず、当事国としての覚悟ができていない。中国側ももちろんこれを見透かしている。王毅外相は4月5日、日本の茂木敏充外相との電話会談の席上、「日本にはどうか大国間の対立に巻き込まれることなく、独立した主権国家でいてほしい」「中国に対する偏見を持った一部の国の“音頭取り”に踊らされないように」と述べ、米国に引きずられているかわいそうな日本への「同情」を伝えた。

日本の曖昧な覚悟に世界が翻弄されようとしている© zhang kaiyv/ Pexels

 日本は2018年、一帯一路について「第三国市場協力」という形で積極的に協力し、推進していくことを約束した。また、日本も加盟しているRCEPと「高質量共建一帯一路」を連携していく青写真も打ち出されていることを踏まえると、中国にとって日本は十分に一帯一路朋友圏(パックスシニカ)に引き込める射程圏内にあるだろう。他方、日本側にも、「安全保障は米国で、経済は中国」という甘い考えがあるのではないか。だとすれば、ポストコロナの世界の形は、日本の曖昧な覚悟に翻弄されることになるかもしれない。

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