トランプ米政権が目指すのは「新植民地主義」か「新外交秩序」か
ウクライナの鉱物資源の権益をめぐる合意文書を南アジアはどう報じたか

  • 2025/3/18

 トランプ米大統領は2月28日、ワシントンでウクライナのゼレンスキー大統領と会談。ウクライナ国内の鉱物支援の権益をめぐる合意文書に署名し、停戦に関する協議も行った。この動きについて、会談前の報道になるが、インドとスリランカの新聞の社説を紹介する。

(c) Matthis Volquardsen / Pexels

人権侵害のぼやかしを懸念するインド紙

 インドの英字紙ヒンドゥーは、2月28日付の社説で、トランプ大統領の「取り引き」について論じた。

 社説は、米国がウクライナのレアアース鉱床にアクセスできるようにすることと引き換えに、ロシアによる軍事侵攻から始まった戦争を終わらせるために支援する、という取り引きについて、「米国に有利な取り引きであり、米国の納税者が『自分たちのカネを取りもどす』ために役立つ措置だ」と、評価した。その一方で、ウクライナの安全保障は欧州が責任を負うべきだとも述べており、「米国がこの紛争への今後の関与を限定的なものにとどめる可能性を示唆している」と伝えている。

 しかし社説は、欧州が協議の蚊帳の外に置かれていることなどを挙げ、この取り引きについて、懐疑的な見方も強いとして次のように述べる。

 「レアアース鉱物の採掘と販売に関する健全な競争や取り引き自体に、何ら問題はない。しかし、この分野における投資取り引きによってロシアによる侵略や大規模な人権侵害に関する戦略的な問題がぼやかされたり、そこから目をそらすために利用されたりするならば、新植民地主義的なアプローチととらえられかねない」

スリランカ紙は米国の方針転換を評価

 一方、スリランカの英字紙デイリーニューズは、社説で「トランプ政権の誕生によって世界の外交秩序が大きく揺れ動いた」と述べ、ウクライナをめぐる米国の方針転換はその象徴的な出来事になるのではないか、と指摘したうえで、次のように述べる。

 「世界は(2月下旬に)2日間にわたって開かれた国連の安全保障理事会と国連総会で採択された2つの重要な決議にあたり、米国がロシア側について世界の外交秩序が大きく動いたことを目の当たりにした」と指摘したうえで、両国における防衛費の半減や、中国もこの枠組みに参加するように呼び掛けていることを「良い結果」として挙げた。

 「世界は米国が世界の平和のために敵対する二国と協力する新たな世界秩序を目撃することになるだろう」

                         *

 トランプ政権の外交政策は、インド紙が指摘する「新植民地主義」と言えるのか、それともスリランカ紙が期待を込めて指摘する「新しい外交秩序」なのか。関係国の首脳たちが米国を中心に会談を重ねている今、その形が見えてくるまでにはもう少し時間がかかりそうだ。

 

(原文)

インド:

https://www.thehindu.com/opinion/editorial/art-of-the-deal-on-trump-and-a-ukraine-mineral-deal/article69270855.ece

スリランカ:

https://www.dailynews.lk/2025/02/26/editorial/731069/a-global-realignment/

 

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