ウクライナ戦争を巡る米ロの接近を南アジアはどう見るか
- 2025/3/16
4年目に入ったロシアによるウクライナへの軍事侵攻をめぐり、トランプ米大統領はロシアとの直接交渉を急いでいる。2月18日にはサウジアラビアでルビオ国務長官とロシアのラブロフ外相が協議を開始。さらに2月24日には、国連安全保障理事会で米国が独自に提出した「ロシアとウクライナの紛争の早期終結を求める」決議を賛成多数で採択した。米国やロシア、中国など10カ国が賛成したが、英国やフランスなど欧州5カ国が棄権した。
インドは「悪い戦略ではない」と注視
インドの英字紙タイムズオブインディアは、2月18日付の社説「地政学的な駆け引き」で、「トランプ大統領とプーチン大統領の会談は、インドにとって悪いニュースではない」と書いた。
社説は、トランプ大統領の目論見は、「ロシアとの関係をリセットし、中国、北朝鮮、イランの陣営から引き離すことにある」としたうえで、「それ自体は悪い戦略ではないかもしれない。中国とロシアの同盟関係は、インドにとっても大きな頭痛の種である」と述べている。
しかし、成り行きを楽観視することなく、「うまくいくのだろうか」と疑問を呈する。その理由として社説は、中国や北朝鮮が、ウクライナでの戦争の中でロシアに多額の投資を行ったことを挙げる。ただ、その一方で社説は、ロシアがインドと共同で開発したブラモス巡航ミサイルをフィリピンやベトナムに販売することを妨害していないとも指摘する。
フィリピンやベトナムは、海洋進出を進める中国との間で対立を深めているが、社説は、「ヘッジに前向きなロシアの姿勢は、インドにとって悪くない」と述べ、米ロの接近を見守っている。
「永遠に終わらない戦争を終わらせる」と肯定的なスリランカ
スリランカの英字紙デイリースターは、2月22日付の社説で、「このままでは永遠に終わらない戦争になる」として、「戦争を終わらせる」という動きに肯定的な見方を示した。
社説はまず、「トランプ米政権の誕生により、この紛争に解決の糸口が見出される可能性が出てきた」と指摘した。ロシアとウクライナは、ともに食料、肥料、エネルギーの主要な生産国であり、両国の紛争は世界中に深刻な影響をもたらしている。さらに、トランプ大統領が「自分が大統領だったらこの戦争は起きなかった」と言ったことに、ロシアのプーチン大統領も最近、同意している、と伝えている。
そのうえで社説は、「米ロ両国の接近に、ウクライナと欧州は大きな衝撃を受けている」と指摘する。ウクライナや欧州はその後の和平の可能性に向けた話し合いにも招かれず、米ロと仲介するサウジアラビアによる協議が行われたが、そのことについても社説は、「この会合の前から米国の複数の高官はおそらくウクライナの犠牲を伴う形で戦争を終結させる方法を話していた」と指摘した。
さらに、「最善の解決策は、クリミアを例外としてロシアが軍隊を元の国境線まで撤退させること」としたうえで、「これは実現性は低いだろう」と見る。アメリカと安全保障上関係性が深い欧州が協力して妥協点を見出し、銃声を鎮めるべきだ、と社説は結論付けている。
パキスタン「大砲と無限のドルの供給がなければ」
一方、パキスタンの英字紙ドーンは、2月21日付の社説で交渉の行方について論じた。
社説は、ウクライナ紛争を「NATOとロシアの代理戦争」だと位置付け、「NATOに懐疑的なトランプ大統領が、早期に戦争を終わらせたいと急ぐのは当然だ」という見方を示した。
社説は、トランプ大統領の最近の言動が「ウクライナに対する米国の関与を縮小、あるいは終結させる可能性を示唆している」としたうえで、「戦争は終結すべき時が来ているが、公正かつ公平な方法で終結すべきだ」と主張する。すなわち、ロシアはウクライナの領土主権を認めたうえで、終結すべきだという意見だ(編集部注:この社説が出た後、トランプ大統領は3月3日、ウクライナに対する軍事支援をすべて一時停止することを発表。ウクライナがトランプ米政権のが提示した30日間の一時停戦案を受け入れたことを受け、支援停止の解除を発表した)。
社説が指摘する通り、現実問題として、米国によるウクライナへの「大砲と無限のドルの供給」がなければ、ウクライナがロシアの軍事力に対峙するのは難しい。どうやら、「公正で公平な終結は望めそうにない」という社説の見方が伝わってくる。
(原文)
インド:
https://timesofindia.indiatimes.com/blogs/toi-editorials/geopoliticking/
スリランカ:
https://www.dailynews.lk/2025/02/22/editorial/728725/ending-the-ukraine-war/
パキスタン:
https://www.dawn.com/news/1893312/ukraine-initiative