インドに対し「トランプ関税」50%を発動したアメリカ 
 「ロシアの原油輸入」は口実 地元紙が伝える見方と今後の行方

  • 2025/10/5

 アメリカのトランプ政権は、インドからの輸入品に課している相互関税を8月27日、50%に引き上げた。アメリカはこれ以前にインドにすでに25%の相互関税を課していたが、今回さらに25%を追加し、50%にまで引き上げられた形だ。理由として、インドがロシアから原油などを輸入していることが挙げられた。この問題は、インドではどう論じられているのか。

インドのグルクル美術学校で、アメリカの関税政策に対してアートで抗議する学生たち。トランプ大統領とモディ首相が抱き合う絵の横に「予想外で衝撃的な25%の懲罰関税」と書かれている(2025年8月1日撮影)(c) AP/アフロ

「トラに乗った」トランプ大統領

 英字メディア、タイムズオブインディアは、8月27日付の社説でこの問題をとりあげた。社説のタイトルは「ウォールド・マート(Walled Mart:壁に囲まれたマーケット)」。アメリカに本社を置く世界最大のスーパーマーケットチェーン、ウォルマート(Walmart)の名前をもじった皮肉だろうか。

 追加関税について社説は、「インドの輸出業者は、今日からアメリカによる記録的な関税の痛手を被る。そして近い将来には、アメリカの消費者も同様の打撃を受けるだろう」と述べる。高関税がかけられることにより、多くのインド製品がグローバル市場における価格競争力を失うことについて、社説は「62%の関税が課されるインド製のシャツが、どうして20%の関税のベトナム製と競うことができるだろうか」と表現する。専門家の試算によれば、アメリカに対する今年のインドの輸出額は、昨年の865億ドルから500億ドルへ急落する可能性があるという。

 また社説は、「今回、トランプ大統領が追加関税を決めた理由について、インドがロシアから原油を輸入していることを挙げているが、そうではない」と指摘する。「アメリカは、ウクライナへの侵攻を続けるロシアに圧力をかけるために今回の措置を決めたとしているが、トランプ大統領はもともとウクライナ戦争に対して無関心だった」と社説は指摘し、次のように述べる。

 「アメリカとインドはこれまで何度も貿易交渉を繰り返してきたが、これまでそうした場でロシアが議題に上ったことは一度もなかった。だが、インドが農産物や乳製品の市場開放について一歩も譲らない姿勢を見せた途端、ロシア産原油輸入の問題が持ち出されたのだ」。

 だからこそ、インドがロシア産の原油を輸入していることは、追加関税の理由の「隠れみの」に過ぎず、実際はインドに市場を開放させるための圧力だ、と社説は主張する。

 そのうえで社説は、「インドは関税の嵐を乗り切る」と見ている。政府が進める代替市場の開拓や経済改革などの取り組みに、一定の評価をしているためだ。一方で、アメリカに対しては、「トランプ大統領は自らの行動の代償を払うことを心配すべきだろう」と指摘。「トランプ氏は、いわば『トラに乗った』ようなものだ」と言う。これは、いったん始めたことを途中でやめるわけにはいかず、後に引けなくなっている状態を指す。インドは、相互関税を冷静に乗り切ろうとしているようだ。

「懲罰的」な関税に冷静に対応

 また、相互関税問題について、「インドはアメリカの挑発には乗らなかった」と報じたのは、インドの英字紙ヒンドゥーだ。8月30日付の社説で論じた。

 社説によると、この50%の「懲罰的」な相互関税が発動されたのは、まさにインドがアメリカと貿易協定の交渉をしている最中だった。しかしインド側は、報復的に交渉を打ち切るようなことはせず、「交渉は一時停止中だが、完全に棚上げされたわけではない」と表明。追加の「懲罰的」な関税によって両国の貿易協定が空文化しても、「交渉が決裂する要因にはならない」と述べた。

 インド政府のこの対応について、社説は「これは極めて現実的な対応だ。アメリカとの貿易交渉を脊髄反射的に中止すれば、これらの懲罰的な関税が継続することになり、インドは輸出産業から得られる利益を失うことになるからだ。政府が交渉を続けるというメッセージも、産業界に対して安心感を与えるものだ」と、高く評価している。

 インド側には、「感情的な反応ではなく、冷静な行動が求められている」状況だと言えよう。

 

(原文)

インド:

https://timesofindia.indiatimes.com/blogs/toi-editorials/walled-mart-2/

https://www.thehindu.com/opinion/editorial/rational-response-on-uss-tariffs-and-statements-indias-response/article69988451.ece

 

 

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