トランプ関税、アジアの新興国は団結して交渉を
高関税への対応を模索するアジアの国々
- 2025/5/19
アメリカのトランプ大統領は4月3日、「アメリカ解放の日だ」という高らかな宣言とともに、世界各国に相互関税を課した。
これは、全ての輸入品に一律10%の基本関税を課したうえで、米国製品への高い関税や、米国に不利な規制をする非関税障壁など「そのほかの不正行為」を全て加味して税率を上乗せするという内容だ。この措置は、発動翌日の4月10日から90日間、一時停止されたが、トランプ政権が「自由貿易」の仕組みを揺るがしたことは、世界経済に大きな衝撃を与えた。特に、米国市場に頼ってきた新興国では大きな打撃を懸念する声が強まっている。
途上国のモノカルチャー経済に大きな打撃
バングラデシュの英字紙デイリースターは4月10日付の社説で、「私たちの貿易戦略を見直すべきだ」という社説を掲げた。
社説はまず、トランプ大統領が相互関税の措置を90日間停止したことを歓迎する。
「この90日間の停止措置について、世界中でさまざまな解釈がなされている。貿易赤字削減のための戦術的措置、中国を孤立させる強硬戦略、不安定な市場を抑えるためのやむを得ない措置、などだ。だが、いずれにせよ、バングラデシュのような国々にとって、歓迎すべき朗報であることは間違いない」
社説によると、バングラデシュにとって米国は「第二」の輸出先であり、その輸出収益およそ100億ドルのうち8割が衣料品によるものだという。もし、アメリカが当初の予定通りに相互関税を発動した場合、バングラデシュの衣料品の輸出業者は、最大53.5%の関税負担という大きな障壁に直面する、と指摘する。
バングラデシュ経済において、衣料品の輸出は大きな役割を担っている。しかし社説は、衣料品に過度に依存する現状は、こうした関税引き上げなどの外的要因に対して「極めて脆弱」だと指摘する。「衣料品という単一の製造部門と、限られた市場に依存する経済にとって、貿易の混乱は重大なリスクだ」と社説は警戒している。
高関税の国々が団結して交渉を
相互関税で44%の関税が課されることになるスリランカの英字紙デイリーニュースも、4月8日付の社説で、トランプ大統領の措置は「解決策にならない」と批判。「関税や付加価値税などの障壁に阻害されない、自由で開放的な貿易が実現されるべきだ」と主張している。
社説は、米国が「スリランカが米国から輸入される製品に一律88%の関税を課しているという主張は、基本的に誤り」として、その算出方法を疑問視した。さらに、「米国政府は、多様な国から輸入する製品に高い関税を課せば、関連企業は関税を回避するために米国国内で事業を展開するようになると信じている。だが、企業が、労働力が安価なアジアの国々からアメリカに工場を移転することは考えにくい」という。
スリランカは、関税の見直しを求めてアメリカと交渉することを選んだ50カ国のうちの一つだ。社説は、「スリランカ、ベトナム、カンボジアなど、関税率を高く設定されている国々は、団結して共同で要請するべきだ」と主張する。
RCEPの活用を訴えるASEAN
東南アジア諸国連合(ASEAN)のリーダー的存在であるインドネシアの英字紙ジャカルタポストも、4月10日付の社説「共に、より強く」で、多国間協議による事態の打開が必要だ、としている。
社説はインドネシア政府が、規制を撤廃するなど、米国に迎合するような姿勢を見せていることについて、こう懸念を示す。「国内の必要性からではなく、外部からの圧力、つまり中国が言うところの『米国の脅迫的な性質』によって対応を変えることは、国内の不満を招く」。
そのうえで、「ASEAN各国の経済構造はそれぞれに異なるが、グローバル貿易の共通原則を、共に守る必要がある。ASEAN諸国の政府が個別にトランプ政権との面会を待つのではなく、ASEAN代表団を米国に派遣すれば、交渉力は大きく高まる」と、周辺国との連携の必要性を訴えた。さらに、アジア太平洋地域の15カ国が参加する世界最大級の自由貿易協定である地域包括的経済連携(RCEP)にも言及。「中国、日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランドとともに、RCEPの代表として交渉をすれば、さらに私たちの立場は強固になる」と主張している。
(原文)
インドネシア:
https://www.thejakartapost.com/opinion/2025/04/10/stronger-together.html
バングラデシュ:
スリランカ:
https://www.dailynews.lk/2025/04/08/editorial/757827/tariffs-not-an-ideal-solution/