分断の時代、ASEANは結束できるか
「投資ナショナリズム」への懸念と、デジタルでつながる地域協力の可能性

  • 2026/9/30

 関税や制裁、輸出規制などを通じて自国の利益を優先する動きが広がり、世界経済の分断が深まっている。こうしたなか、経済的、政治的な一体化を目指してきた東南アジア諸国連合(ASEAN)の結束も試されている。

 インドネシア紙は、外国投資をめぐって加盟国同士が競い合う「投資ナショナリズム」の広がりに警鐘を鳴らし、国際経済問題ではASEANが「一つの声」で発言する必要があると訴える。一方、タイ紙に掲載された国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)の寄稿は、新たな分断を生みつつあるデジタル分野で、国境を越えた協力を進める可能性に目を向けた。

 経済的にも、政治的にも共同体として一体化することを目標に掲げるASEANは、分断が進む世界で各国の利益を超えて結束できるのか。二つの記事から、地域協力の現在と可能性を考える。

(c) Kurwahyukur /wikimediacommons

加盟国同士が競う「投資ナショナリズム」

 インドネシアの英字紙ジャカルタ・ポストは、9月7日付の社説「ASEAN unity at stake(試されるASEANの結束)」で、この話題をとりあげた。

 「私たちは貿易によってつながるのではなく、分断された世界で生きることに慣れてしまった」と、社説は書き出す。そして、近年の国際経済の状況について、「関税や非関税障壁、補助金や優遇措置、輸出禁止、一方的な制裁など、あらゆる手段が許容され、公正かつ中立な仲裁者」が不在のまま、経済的な単独主義が広がっている」と指摘する。「フレンド・ショアリング」、つまり友好国の間でサプライチェーンを構築するという「響きの良い造語」の陰でも、地経学的な分断が進んでいる、という。

 この分断した社会でASEANが最も避けなければいけないことが、域内での「経済的な内輪もめ」だ。しかし、現実には「投資ナショナリズムと呼ぶべき動きが醸成されつつある」と、社説は指摘する。これは、ASEAN域内の指導者たちが、他の加盟国を出し抜いて自国を外国投資に最適な場所として売り込もうとする動きだ。

 社説がその象徴として挙げるのが、アメリカによる「トランプ関税」の対応だ。「トランプ大統領が各国への関税率を発表すると、ASEAN各国の当局者たちは、自国にとって最善の条件を引き出そうと、相次いでホワイトハウス高官との面会を求めたという。

 「ASEANに真の結束があれば、彼らは一丸となってワシントンを訪れ、すべての加盟国に対してアメリカ市場への公平なアクセスを要求していたはずだ」と社説は主張し、次のように訴える。

 「自国第一の貿易政策が主流になる新たな世界でASEANが存在感を保つためには、一致団結して行動しなければならない。ASEANには、欧州連合(EU)のような緊密な超国家的な政治機構はないが、少なくとも国際経済問題については、一つの声で発言することを学ばなければならない」

「デジタルの国境」を越えられるか

 一方、タイの英字紙ネーションは、9月5日付紙面で、ASEANを含む地域統合の新たな分野として「デジタルトランスフォーメーション」を掲げるべきだ、と訴える国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)の寄稿を掲載した。

 記事は、「物理的な国境が縮小しつつある世界で、デジタルの国境が静かに台頭している」と指摘する。

 問題となるのは、デジタル技術を利用できる人とできない人の間に生じるデジタルデバイドにとどまらない。国ごとにことなるインフラや技術基準、規制そのものが国境を越えた協力を難しくし、新たな「デジタル分断」を生み出しているという。

 ASEANは今年11月の首脳会合で、「ASEANデジタル経済枠組み協定」を発足させる予定だ。デジタル貿易や越境EC、電子署名、サイバーセキュリティーなどについて共通のルール作りを進めることで、よりシームレスな地域デジタル経済の構築を目指す。

 ESCAPは、同様の取り組みをしているユーラシア経済連合(EAEU:ロシア、ベラルーシ、カザフスタン、アルメニア、キルギスの5カ国)とASEANがデジタル分野で協働すれば、分断された国際社会を再びつなぎ合わせ、国境を越えた協力をより効率的にできるのではないか、と提起している。

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 ジャカルタ・ポストが懸念するのは、世界で自国第一主義が強まるなか、ASEAN内部まで各国の利益を競い合う方向へ向かうことだ。一方、ネーションに掲載されたESCAPの寄稿は、新たな分断が生まれているデジタル分野だからこそ、国境を越えて共通の仕組みをつくる可能性に目を向ける。

 分断が進むほど、各国が自国の利益を優先する誘惑は強くなる。しかし、一国だけでは対処できない課題も増えている。競い合うのか、つながるのか。二つの記事は、分断の時代にASEANが「地域」としてどこまで行動できるのかを問いかけている。

 

(原文)

インドネシア:

https://www.thejakartapost.com/opinion/2026/09/07/asean-unity-at-stake

タイ:

https://www.nationthailand.com/the-opinion/40070674

 

 

 

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