「10・7」から3年 イスラエルをめぐる外交の変化
フィリピン紙とインド紙が読み解く、外交の原則と安全保障の思惑

  • 2026/10/28

 パレスチナの武装組織ハマスが主導したイスラエル南部への攻撃と、それに続くイスラエル軍によるガザ地区への攻撃が始まってから、10月7日で3年を迎えた。2025年10月には停戦合意が結ばれたものの、ガザではその後も攻撃が続き、民間人を含む犠牲者が出ている。
長引く紛争は、中東地域だけでなく、各国の外交にも影響を及ぼしている。国際法や人権を重視する姿勢と、安全保障上の利害をどう両立させるのか。フィリピンとインドの英字紙が、イスラエルをめぐる外交の変化に注目した。

イスラエルをめぐる各国の外交姿勢が問われている。写真は国連総会の会場(イメージ)(c) Basil D Soufi / wikimediacommons

国際法と人権を重視するフィリピン外交

 フィリピンの英字紙デイリーインクワイアラーは、10月2日付で「人間の顔が見える外交政策を」と題した社説を掲載した。
 社説は、カトリックの信者の多いフィリピンでは、宗教的・歴史的な背景からイスラエルに親近感を抱く人が少なくなかったと紹介したうえで、現在のイスラエルについては、国際社会で孤立を深めていると指摘する。
 9月24日、国連総会でイスラエルのネタニヤフ首相が演説を始めると、多くの国の代表団が、中東和平への連帯と、イスラエルとパレスチナが共存する「二国家解決」への支持を示すため、会場から退席した。
 フィリピンも、退席した国の一つだった。社説はこれを「意外な姿勢」と表現する。フィリピン政府の決断の背景には、イスラエルがヨルダン川西岸地区で大規模な入植地計画を承認したことがあるという。フィリピン政府は、こうした動きが中東紛争の公正かつ永続的な解決を妨げると考えたのだ。
 フィリピンは伝統的にアメリカの同盟国であり、イスラエルとも友好的な関係を築いてきた。イスラエルでは約3万人のフィリピン人が介護職員などとして働いており、彼らの安全への懸念もある。それでも今回、フィリピン政府がイスラエルの政策に異議を唱え、パレスチナの人々の権利、とりわけ自決権を擁護する姿勢を明確にしたことを、社説は「国際法とルールに基づく秩序を擁護する」原則的な立場だと評価している。
 社説はまた、フィリピンが南シナ海の領有権問題でも国際法に基づく解決を重視してきたことに触れ、今回の姿勢を「より独立した非同盟外交政策への歓迎すべき転換」と評価している。そして最後に、外交政策や条約の先には一人一人の人間がいるというラザロ外相の言葉を紹介し、人々の命や暮らしを守る視点の重要性を訴えている。

イスラエルとUAEの接近、その背景にある安全保障

 一方、インドの英字紙インディアンエクスプレスは、10月1日付で、イスラエルとアラブ諸国の関係に着目した社説を掲載した。
 イスラエルのネタニヤフ首相は9月末、アラブ首長国連邦(UAE)を極秘裏に訪問し、ムハンマド大統領と会談した。インド紙はこの訪問の背景にある中東地域の安全保障環境の変化を読み解こうとしている。
 イスラエルとUAEは2020年の「アブラハム合意」で国交を正常化している。社説によると、両国が関係を深める背景には、アメリカとイランが対立を深めるなか、アラブ諸国がイランからの攻撃の脅威にさらされ、「アメリカの安全保障にのみ依存することの限界」を認識し始めたことがあるという。
 特にUAEは、イスラエルから防空システムやドローン対策の技術を導入しており、自国の安全を守るためにイスラエルとの協力を重視している。一方、イスラエルにとっても、協力的なアラブ諸国との関係を築くことは、中東地域で自国の安全を確保するうえで重要な意味を持つ。
 しかし社説は、こうした連携には矛盾が存在すると指摘する。イスラエルはヨルダン川西岸で入植地の拡大政策を進めるなど、アラブ社会にとって受け入れがたい行動をとっている。また、レバノンやシリアへの攻撃など、イスラエル自身が地域を不安定化させているとも指摘する。
 社説は、アブラハム合意による関係正常化をパレスチナ問題から切り離したままにすることはできないと強調する。長期的な地域の緊張緩和に向けた政治的な枠組みがなければ、イスラエルとUAEが求める安定と安全も実現しない、というのだ。
                      *
 フィリピン紙が注目するのは、従来の外交関係にとらわれず、国際法やパレスチナの人々の権利を重視する政府の姿勢だ。一方、インド紙は、安全保障上の利害から進むイスラエルとUAEの接近に注目しながらも、パレスチナ問題を切り離して地域の安定を実現することはできないと指摘している。
 二紙の社説は、異なる立場からイスラエルをめぐる外交を読み解きながら、長引く紛争とパレスチナ問題がもたらす影響の深さと深刻さを映し出すとともに、各国の外交に重い課題を突きつけていることを浮き彫りにしていると言えよう。

 

(原文)
フィリピン:
https://opinion.inquirer.net/194820/human-face-on-foreign-policy

インド:
https://indianexpress.com/article/opinion/editorials/netanyahus-surprise-visit-and-a-gulf-too-wide-10901338/

 

 

関連記事

 

ランキング

  1.  2021年8月にイスラム主義勢力タリバンがアフガニスタンで復権してから5年が経ちました。世界各地で…
  2.  2021年2月のクーデターから5年あまりが経ったミャンマー。2025年末から2026年初めにか…
  3.  アメリカと中国は、2026年9月に開かれた首脳会談で、人工知能(AI)のリスク管理に向けた対話…
  4.  タリバンがアフガニスタンで再び政権を掌握してから、今年8月で丸5年。その節目に…
  5.  ネパールと中国の国境沿いで8月26日、大規模な鉄砲水と土石流が発生しました。原因の一つとして指摘さ…

ピックアップ記事

  1.  2026年8月、ネパール中部を大規模な土石流が襲いました。ヒマラヤでは気候変動に伴う氷河の融解…
  2.  2017年8月25日、ミャンマー西部ラカイン州でロヒンギャの武装勢力が国境警察施設を襲撃したことを…
  3.  ミャンマー西部ラカイン州に多く暮らす少数派イスラム教徒ロヒンギャ。長年にわたり市民権を認められ…
  4.  2016年7月1日にバングラデシュの首都ダッカで発生したホーリー・アーティザン・ベーカリー襲撃テロ…
  5.  2016年7月1日夜、バングラデシュの首都ダッカで、日本人7人を含む多くの命が奪われたホーリー…
ページ上部へ戻る