『月刊ドットワールドTV』#9 「歌の力で壁を越え、分断を飛び越えたい」
日本とミャンマーにルーツの姉妹が描く未来

  • 2025/5/23

 ドットワールドと「8bitNews」のコラボレーションによって2024年9月にスタートした新クロスメディア番組『月刊ドットワールドTV』が、9回目のライブ配信を行いました。今回は、ドットワールド編集長の玉懸光枝が、チャリティコンサートを通じて3月28日に大地震に見舞われたミャンマーの被災地支援を呼びかけているユニット、yuzuna&utaを東京のスタジオに招き、8bitNewsの構二葵さんとともに伝えました。

自粛ムードの中で開催を決めたチャリティライブ

 9回目となる番組は、「その先にいる誰かと繋がるために ~日本×ミャンマールーツの姉妹が信じる歌の力~」と題し、5月21日の日本時間19時から8bitNews上で配信されました。

 地震の発生から間もなく2カ月が経とうとしているミャンマーでは、連日40度を超える暑季に続いて雨季も始まっており、大雨による二次災害も起きています。

 この日のゲストトークは、地震の発生から2週間後に都内で開かれたチャリティライブの紹介から始まりました。ミャンマーの人たちが大好きな枝いっぱいの黄色いパダウの花の写真が投影されたステージ上で歌う二人と、曲に合わせて身体を揺らしつつあたたかい手拍子を贈るフロアの映像に続いてスタジオに登場したのは、yuzunaさんとutaさん姉妹です。ミャンマー人の父親と日本人の母親の間に生まれた二人は、生まれも育ちも東京ですが、姉のyuzunaさんが小学校6年生、妹のutaさんが小学校4年生に進級した春から4年間、家族と共にミャンマーで暮らしていました。

ミャンマーに住んでいた頃、インレー湖に住む親戚を訪ねたゆずなさん(右)とうたさん (c) yuzunaさん提供

 冒頭のライブは、そんな二人が甚大な被害に見舞われた祖国のために、初めて自分たちで企画しました。その時の気持ちについて、yuzunaさんは「苦境が続くミャンマーで、また大変なことが起きてしまったと強いショックを受けた」「大好きな国のために何かしたいと、すぐにチャリティライブの開催を決めた」と話しました。一方、utaさんは「深い悲しみにあるミャンマーの人たちが、お正月恒例の水かけ祭りや踊りを次々と自粛するなかで、私たちが歌っていいのかと悩む気持ちもあった」と振り返り、「私たちの歌は単なる娯楽ではない。伝えたいメッセージがあるからこそ歌おうと思った」と話しました。

 さらにyuzunaさんは、「私たちのライブでは、ミャンマーで人気のラブソングや、原曲が日本語の歌をミャンマー語で歌うことが多い。目を輝かせて一緒に歌うミャンマーの人たちを見るたびに、私たちが歌う意味はここにあるのだと確信する」と続けました。

生活の中にあるミャンマーへの思いと歌

 yuzunaさんは2024年1月、Kiroroの名曲「未来へ」を日本語とミャンマー語を織り交ぜてカバーした「未来へ(Myanmar Version)」で、歌手としてデビューしました。今年1月には、Kiroroの金城綾乃が作詞・作曲した2枚目のシングル「この地球(ほし)の片隅で」もリリースし、大学生活のかたわら歌手活動にも取り組んでいます。

 番組では、両親がミャンマー語で会話し、食卓には日本とミャンマーの料理が並ぶという家庭の様子や、ミャンマーで生活していた頃の写真とともに、第二の祖国であるミャンマーを二人が常に意識していることが紹介されました。

ミャンマーに滞在中、近所の公園で弟とともに記念撮影するゆずなさん(左)とうたさん(中央) (ゆずなさん提供)

 また、二人の生活には歌も常にともにあり、メイクをする時も、食事の支度をする時も、いつも誰かが歌を口ずさんでいることや、誕生日には家族でWe Are the Worldを歌うのが習慣だというエピソードも披露されました。スタジオをいつものリビングに見立てて二人がアカペラで歌う場面もありました。

 さらに、昔から人に注目されることが苦手だったというutaさんと、小さい頃から人前で表現することが大好きだったというyuzunaさんの素顔も紹介され、対照的だからこそ互いに補い合い、信頼し合っている様子も紹介されました。

歌うことへの意識に変化

 そんな二人にとって転機となったのが、2021年2月1日に起きたミャンマーのクーデターでした。当時、yuzunaさんはスイスに留学中で、utaさんは東京の自宅から高校に通っていましたが、どちらも戸惑いや恐怖、怒りの感情に苦しみながら、それぞれ歌い続けることで傷ついた自分の心を癒やしていました。

 しかし、yuzunaさんの帰国を機に、yuzuna&utaとして人前で歌うようになった二人は、ステージを重ね、ライブに来てくれるミャンマーの人たちから逆にエールをもらうなかで、歌うことへの意識が変わってきたと言います。

 「ミャンマー語をブラッシュアップするとともに、一つ一つの発言にこれまで以上に配慮しようというプロとしての自覚が生まれた」と感じているyuzunaさんは、「ステージに立つたびに歌の力を実感する」と言います。「今はカバー曲が多いが、ミャンマーや世界への願いを自分たちの言葉で伝えるために、オリジナル曲を増やしたい」「国境や人種の壁を超え、分断をなくす世界ツアーをしたい」と、yuzunaさんが力強く夢を語ると、utaさんも「ミャンマーの人たちに思い切り歌ってもらえるようにミャンマー語の歌のレパートリーを増やしたい」「世界に出て歌の力が世界に通用することを肌で感じたい」と話しました。

 なお、お二人には、「「歌うことは宿命」 日本とミャンマーにルーツの姉妹が願う世界」で玉懸がインタビューしています。こちらも、ぜひ併せてご覧ください。

性格は対照的だが、だからこそ互いに補い合い、信頼し合っているというゆずなさん(右)とうたさん (2025年4月13日、筆者撮影)(c) 筆者撮影

 このほか、番組では、「社会を読み解く」の新着記事の中から、かつて「アラブの春」で民主化に成功したと言われるチュニジアで昨年10月に実施された大統領選挙を現地の若者がどう見ていたのかを探った「チュニジアの大統領選挙に見る「アラブの春」のその後」や、ガザから2キロの地点にあるイスラエルのグラウンドゼロを訪ねた訪問記録「10.7 ハマスがイスラエルを越境攻撃した地を訪ねて」、そして多民族国家ミャンマーを文化人類学の視点から読み解く連載「ミャンマー(ビルマ)知・動・説の行方」の最終回を紹介しました。また、「報道を読む」の新着記事の中から、「フランシスコ教皇が死去、多様性を愛した「民衆の教皇」」、「「災害は平和を導く非凡な力」ミャンマー大地震に期待できるか」、そして「トランプ関税、アジアの新興国は団結して交渉を」も紹介しました。

           *

 2019年7月にスタートしたドットワールドは、昨夏、創刊5周年を迎えました。これまでのご愛読と応援に心から感謝いたします。節目のタイミングでご縁をいただきスタートした8bitNewsとのクロスメディア番組「ドットワールドTV」を通じて、一層多くの方々に記事をお届けできれば嬉しいです。ぜひご視聴ください。

 ドットワールドはこれからも世界の人々から見た世界の姿や彼らが大切にしているもの、各国の報道ぶりや現地の価値観を喜怒哀楽とともに伝えることで、多様な価値観を理解し、違いを受容し合える平和で寛容な一つの世界を築く一助となることを目指します。引き続きどうぞ宜しくお願いします。

 

 

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