対立か依存か 対中関係で一枚岩になれないASEAN の今
船舶の衝突で緊張高まるフィリピンと、運河の建設支援で関係を深めるカンボジア
- 2024/9/20
南シナ海で続いているフィリピンと中国との対立が、ますます深まっている。フィリピン政府は8月25日、フィリピン漁業水産資源局の船が南シナ海で中国海軍や海警軍の船に囲まれ活動を妨害された、と発表した。一方、カンボジアと中国は蜜月状態が続いている。
一触即発の南シナ海
フィリピンの英字紙インクワイアラーは8月30日付の社説でこの問題を取り上げた。
社説によると、中国側の船はフィリピン漁業水産資源局の船に放水したほか、6回も船体を体当たりさせたという。これにより、フィリピン側の船はエンジンが故障し、船体や通信機器、航行機器も破損した。「それだけではない。中国は8月22日、フィリピンの排他的経済水域で密漁者を監視していた航空機に向けて照明弾を発射した」と社説は指摘する。フィリピン側の乗組員には負傷者も出たという。
フィリピンのマルコス大統領は、こうした中国側の行為によりフィリピン人が命を落とした場合は「戦争行為に極めて近いと言わざるを得ない」と述べ、フィリピンが米国との相互防衛条約を発動する引き金になる、と警告した。社説は「中国が非合法で危険な作戦を加速させている現状において、その可能性は十分にあり得る。フィリピンは急いで先手を打たなくてはならない」と主張している。
中国とフィリピンが一触即発の状態にあることは、日本にも大きな影響をもたらす。なぜなら日本は7月、フィリピン軍と自衛隊の相互往来を容易にする「円滑化協定」に署名し、安全保障に関する連携を強化したからだ。米国の動きを待つまでもなく、日本がフィリピンと中国の対立に巻き込まれる可能性は大いにある。
軍事利用も懸念される巨大運河の建設
その一方で、同じASEANでありながら、中国との関係を深める国の一つが、カンボジアだ。同国では8月、首都プノンペンから沿岸部のケップ州まで、全長180キロメートルに上るフナンテチョ運河の建設が開始された。総建設費17億ドル(約2600億円)とも言われるこの建設は、カンボジアにとって最大規模のインフラ整備事業であり、完成すれば、ベトナムを経由することなくプノンペンと沿岸とを往来する水運が可能になる。工期は4年を見込んでいる。
資金を提供するのは、中国だ。開発契約を結んだ中国国有企業が、建設と、完成後50年にわたる運営を担うという報道もあり、周辺国などから中国の軍事利用を警戒する声が高まっている。
カンボジアの英字紙クメールタイムズは8月6日付で「フナンテチョ運河:過去、現在、未来をつなぐ」と題した社説を掲載した。
社説によると、フナンテチョ運河の開発事業について、カンボジアのフン・マネット首相は、「単なる水路ではなく、カンボジアの前身とされる扶南王国の歴史的意義と偉大さを象徴する、生きた記念碑である」と語ったという。扶南は、紀元2世紀から7世紀にかけて、カンボジアからベトナム南部のメコンデルタ地域にかけて存在した王国だ。
また、フナンテチョ運河によって内陸の水路と海が直結することによって、「カンボジアの物流に革命がもたらされるだろう」との期待を示している。
しかし社説では、この運河が中国の資金提供を受けていることや、中国による軍事利用が懸念されていることには触れられていない。この書きぶりからは、クメールタイムズが従来通り、政権寄りの立場をとっていることがうかがわれる。
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中国との距離感という点では、ASEANは未だかつて一度も「一枚岩」になったことがないと言ってもいいだろう。さらに近年、カンボジアが、内政に口を出さずに経済支援を拡大する中国に依存を深める姿勢をとってからは、ASEAN各国の足並みはますますそろわなくなっている。こうしたなかでカンボジアが中国の支援を受けて過去最大級の国家プロジェクトを実施することは、今後も中国に対するASEAN各国の姿勢が乖離し続けるということを示している。
(原文)
フィリピン:
https://opinion.inquirer.net/176438/stronger-response-to-chinas-bullying
カンボジア: