武力衝突のタイとカンボジア 停戦発効後も残る余波
両国の報道ぶりに見る国境紛争の行方 

  • 2025/8/14

 タイとカンボジアの国境地帯で7月24日から続いた武力衝突で、両国であわせて30人以上が死亡した。両国は7月28日に無条件の停戦に合意し、攻撃や兵士の移動を停止することで一致。今後は双方の軍の間で調整チームを設置し、紛争の再発予防に努めるとともに、関係改善に取り組むとしている。

 武力衝突のきっかけは今年5月下旬、国境地帯で両軍による銃撃戦が発生し、カンボジア側の兵士1人が死亡したことだった。これをきっかけに両国の緊張が一気に高まり、武力衝突にまでエスカレートした。その後、両国ともに互いに責任をなすりつけ合う非難の応酬を続けた結果、両国間の国境が封鎖されたり、タイ国内のカンボジア人労働者が多数帰国したりするなど、さまざまな影響が出ている。
 さらに予想外の事態も起きた。武力衝突の解決に向けて、タイのペ―トンタン首相がカンボジアのフン・セン上院議長と交わした電話の内容が流出したのだ。その電話で、ペートンタン首相がカンボジア側におもねるような発言をしたとして、タイ国内で首相を非難する世論が高まり、首相は職務の一時停止にまで追い込まれている。

カンボジアが発した砲弾が直撃したガソリンスタンドに併設されたコンビニエンスストアで開かれた犠牲者の追悼式に参加する親族たち。タイ、シーサケットで2025年7月30日撮影 (c) ロイター/アフロ

タイの社説は「真の勝者がいない」と双方を批判
 この武力衝突について、タイの英字紙バンコクポストは7月25日、「戦争の犠牲者」という社説を掲載した。
 社説は、この国境紛争により多数の死者が出たことを非難し、なかでも民間人への攻撃は国際法違反だと強調した。また、一連の経緯については、タイ、カンボジア両国ともに「プロパガンダとナショナリズムが暴力に拍車をかけた」として、双方の責任を指摘している。長い国境を有する両国間には、共同国境委員会など、国境の和平を維持するメカニズムが存在するが、社説は、今回はそれら外交上のメカニズムが機能せず、「軍事行動が優先された」として、両国の姿勢を批判している。
 「両国の指導者は、この紛争において真の勝者がいないことを認識する必要がある。この紛争が長期化することは、双方にとって何の利益にもならない」と述べ、さらにこう主張した。「この状況は、コントロール可能だ。なぜなら、宗教や民族のような、妥協が難しい問題に端を発する対立ではないからだ」と、結論づけている。

「タイが対話ではなく爆弾を選んだ」と主張するカンボジアの社説
 一方、カンボジア側では、タイ側に対する憤りがメディア上にあふれている。クメールタイムズ紙は7月25日付で「平和への爆弾:タイによるカンボジア民間人に対する戦争犯罪」と題し、プノンペンで活動する地政学者の論考を掲載した。
 論考は、「タイからのメッセージは、平和ではなく戦争であり、対話ではなく侵略である」と主張したうえで、タイ軍の戦闘機がカンボジアの民間人の居住地域を爆破したことを厳しい言葉で非難し、次のように主張する。
 「内戦の傷跡が残るカンボジアは、平和、対話、協力の道を選んだ。私たちは、紛争の代償がどれほど大きなものであるかを痛感しているからだ。しかしタイは、その傲慢な軍事行動と拡張主義的思考により、爆弾という手段を選んだ」。
 一方、カンボジアの反撃については、「国連憲章に基づく正当な自衛権である」と述べている。
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 タイとカンボジアの国境をめぐる紛争は今回が初めてではない。過去にも犠牲者が出るような武力衝突が何度も起きている。2003年にはアンコール遺跡群をめぐる発言をきっかけに対立が過熱し、カンボジア国内でタイの大使館やタイ系企業が襲撃された事件も起きた。ただ、今回の武力衝突は、ペートンタン首相の職務一時停止や、父親であるタクシン元首相の影響力の陰りというタイの内政問題に加え、カンボジアの実力者であるフン・セン氏とタクシン氏の蜜月関係の崩壊という外交問題にも濃い影を落としており、その影響はより複雑だと言える。

 

(原文)
タイ:
https://www.bangkokpost.com/opinion/opinion/3075185/casualties-of-war

カンボジア:
https://www.khmertimeskh.com/501724977/bombs-over-peace-thailands-war-crimes-against-cambodias-civilians/

 

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