韓国で守られた民主主義 アジア諸国が「素晴らしい韓国ドラマ」と賞賛
不当な戒厳宣布を拒否した国民と、武力弾圧を避けた韓国軍のプロ意識に注目が集まる

  • 2025/1/17

 韓国で2024年12月14日、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の弾劾訴追案が可決され、尹氏の大統領としての職務が停止した。その後、警察などでつくる合同捜査本部は2025年1月15日、内乱首謀の容疑で尹氏の身柄を拘束して取り調べを行っていたが、17日にも逮捕状の請求に踏み切ると見られる事態となっている。

 尹氏は12月3日夜、国民に向けた緊急のテレビ演説で突然、「非常戒厳を宣布する」と発表。これに抗議をする人々が国会議事堂前などに集結し、怒りの声を上げた。韓国国会は翌4日未明に非常戒厳の解除を求める決議案を可決。尹氏はこれに従い、宣布からわずか6時間後に非常戒厳の解除に追い込まれていた。

尹錫悦大統領は2024年12月4日、ソウルの大統領府でテレビ演説を行い、非常戒厳令を解除すると発表した。この発表は、国会が戒厳令の撤回を求める決議を全会一致で可決した数時間後に行われた。尹大統領は前夜、親北朝鮮勢力を根絶して憲法秩序を堅持する必要があるとして、戒厳令を宣言していた。 (2024年12月4日撮影)(c) YONHAP NEWS/アフロ

韓国をお手本に タイが得た教訓

 タイの英字紙バンコク・ポストは、2024年12月7日付の社説で「韓国はタイの良いお手本になる」と論じた。

 タイでは国政にたびたび軍部が介入している。社説は、「軍の政治介入に悩まされることが多い国として、民主主義の機能を示した韓国の政変から学ぶべき教訓は多い」としている。

 一連の動向について、社説は「この勝利は韓国国民と野党議員たちの努力の結晶であり、称賛に値する」と評した。また「さらに重要なのは、大統領が発した戒厳令に対し、議員が拒否権を発動できるという政治システムだ。これにより、指導者による権力の乱用を効率的に防止できることを今回の事例が証明してくれた」と述べ、これを「けん制と均衡のメカニズム」と呼んだ。また、「特筆すべきは、韓国軍のプロ意識だ」と軍の対応に注目。抗議行動を起こす群衆と対峙した際、軍が暴力を行使しなかったことを高く評価した。

 社説は、「今回、韓国で起きた事件によって、タイでも非常事態、すなわちクーデターや戒厳令に対抗するためのメカニズムを構築する必要があることが改めて浮き彫りになった」と強調した。また、過去のタイにおける軍の政治介入を振り返り、「結局、クーデターは解決策ではなく、むしろ問題でしかないことを、タイ人は繰り返し学んできた。クーデターは国を停滞させてきた」と批判した。

 「タイが東アジアの国々に追い付くには長い時間がかかるかもしれない。だが、韓国の事件は一つの模範を示している。非常に良い模範だ」

ソーシャルメディアが果たした大きな役割

 インドネシアのジャカルタポストは、2024年12月7日付の社説で、今回の事件を「見応えのある素晴らしい韓国ドラマだ」と表現した。

 社説は、「韓国のテレビドラマは一般的に長々と続くものが多いが、今回、同国で実際に起きた政治ドラマは、ドラマとは対照的に、簡潔で素晴らしいものだった。このドラマのクライマックスは、言うまでもなく、大統領が宣言した戒厳令を、数時間後に自ら解除した時だ。正義が悪を打ち負かすという古典的な物語。これ以上ないほどのハッピーエンドだ」と、今回の事態を手放しで称賛する。

 社説は、民主主義のために闘った国民を称える一方で、インターネットやソーシャルメディアが果たした役割の大きさを指摘した。社説によると、軍は非常戒厳を受けて既存メディアに出向いて報道管制を課したというが、インターネットやソーシャルメディアのプラットフォームは、その対象にならなかった。その結果、ソーシャルメディア上にはリアルタイムで情報が次々に投稿され、事態の推移が広く市民に共有された。「インターネットが普及する前だったら、ほとんどの人々は何が起きているか分からなかっただろう」と社説は指摘した。

 また、タイ紙同様、インドネシア紙の社説も「韓国軍が権力の誘惑に屈しなかったことを評価すべきだ」と評価している。「韓国の人々は、民主主義を守るために殺し合う必要などなく、ただ断固とした態度で臨めばよいのだ、ということを示した。人々が民主主義を望み、そのために闘ったからこそ、韓国の民主主義は生き残ったのだ」

 それぞれの国が、民主主義を求めて大きな犠牲を払いながら歩んできた自国の歴史と、今回の韓国の事件を重ねて論じていることが印象的だ。

 

(原文)

タイ:

https://www.bangkokpost.com/opinion/opinion/2915415/s-korea-sets-a-good-example

インドネシア:

https://www.thejakartapost.com/opinion/2024/12/07/k-drama-worth-watching.html

 

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