シリアが「過激派」主導で国家再建へ 国際社会はどう関与すべきか
暫定政権の「改心」を信じて新しい国づくりを支援できるか

  • 2025/1/20

 アサド政権が崩壊したシリアの「今後」が注目されている。2024年12月24日、前政権を打倒した複数の武装勢力の指導者たちは、暫定政権の国防省のもとに統合されることで合意した。しかし、国家の行方はいまだ不透明であり、国際社会はどのようにシリアの「新たな夜明け」を支えるべきか模索している。各紙の論調を紹介する。

ハマへの攻勢でハマ軍用空港を占領するシリア反政府勢力。 (2024年12月5日〜8日の間に撮影) (c) Voice of America / Wikimedia commons

「シリアは駆け引きのコマではない」

 バングラデシュの英字紙デイリースターは2024年12月9日付で「シリアの新たな夜明け」と題した社説を掲載し、「国の将来はシリア国民の手で決定されるべきだ」と主張した。

 社説は、「ほんの数週間前まで、シリアの運命がこのように劇的に変化するとは予想できなかった。まん延する混沌と不安定さに中東の国々が苦しむなか、シリアは今、岐路に立たされている」と指摘したうえで、アサド政権崩壊後のシリアの現状について次のように解説した。

 「シリアでは、長年続く内戦によってすでに50万人の命が奪われ、総人口のほぼ半数が避難を余儀なくされている。まずは、シリアが前進し、癒やしに向かう必要がある。安定の第一歩は、暴力を終わらせることだ。そのためにはシリアのすべての当事者が対話し、国民の意思を反映した解決策を見出すことが不可欠だ。さらに、平和的に政権が移行し、国内のすべての民族、宗教、社会集団が迫害から守られなくてはならない」

 そのうえで社説は、「シリア国内での取り組みに対して国際社会も負うべき役割がある」と述べ、「外国勢力はシリアを地政学上の駆け引きのコマとして利用することをやめ、再建に向けた支援と資金援助を行うべきだ」と訴える。

 「シリアの未来は、シリア国民自身の手で決定されなければならない。それにより初めてシリアは残忍な独裁者を追い出した真の利益を手にすることができるのである」

欧米諸国は「過激派のテロ組織」を支援するか

 一方、パキスタンの英字紙ドーンは、2024年12月18日付の社説でバングラデシュ紙が言及した「国際社会による地政学上の駆け引き」について論じている。

 今回、アサド政権崩壊を主導した「シャーム解放機構(HTS)」に対し、国連や欧米諸国はこれまで過激派のテロ組織として制裁を課してきた。しかし今、シリアの暫定政権の命運を握っているのは、HTSの指導者であるジャウラニ氏だ。社説はジャウラニ氏について、「かつてHTSは、まるで火を噴くような過激な集団だったが、今は多様性と包括性を支持するブレザーを着た人物に変わった」と表現。その一方で、「今後、数週間のうちに、この『改心』が本物であるかどうかが明らかになるだろう」と、慎重な見方を示した。

 社説は、HTSに対する欧米諸国の姿勢が必ずしも一貫していないと指摘。その対応は、一律に過激派を否定するものではなく、シリアでも「ロシアとイランを地政学的に敗北させ、イスラエルの立場を強化するため」であるならば、過激派とされてきたHTSをも支援する可能性がある、と指摘する。そのうえで社説は、「これはつまり、アフガニスタンにおいてタリバン政権を認めない一方、シリアではタリバンと同等か、それ以上に過激なグループによる政権の掌握を称賛することになる」と指摘。「欧米諸国の対応を引き続き注視すべき」だと述べた。

「インドネシアを模範に民主主義の樹立を」

 一方、インドネシアの英字紙ジャカルタポストは2024年12月12日付の社説で、多数のイスラム教徒を抱える国ならではの視点を提示した。

 社説はまず、アサド政権後のシリアを表現するために、「トラの口から逃れ、ワニの口に入る」というインドネシアのことわざを引用した。このことわざは、解決したと思った事態がさらに悪い状況に陥ることを意味するが、社説は「アサド大統領を退陣に追い込んだ後のシリアの人々にこのことわざが当てはまる可能性が高い」と指摘する。

 また、インドネシアの歴史を振り返りながら、「わが国も独裁政権による苦い経験をしたが、自力で立ち直った」と指摘。さらに、インドネシアに求められるシリアへの向き合い方として、「経済的に復興を支援することは難しいが、われわれは最も価値がある民主主義の経験を共有することができる。世界最大のイスラム教徒人口を抱える国でありながらイスラム国家ではないインドネシアは、イスラム教が近代的な民主主義と両立し得ることを証明する存在だ」と述べ、自国の存在価値を強調した。

 そのうえで社説は、インドネシアが民主主義国家として成立できている要因について、「われわれには、世俗主義体制(政教分離)を選択するのだという決意がある」と指摘し、「イスラム政党が国内政治を支配することはほとんどない。時折、暴力的なイスラム組織がインドネシアをイスラム国家に変えようとするものの、大きな支持を得ることはない」と続ける。

 最後に「最終的な判断を下すのはシリア国民だ」と前置きしたうえで、「われわれインドネシアの歩みを民主主義の模範として参考にしてほしい」と呼びかけ、「シリアの人々が民主主義を含むすべての権利を回復できるように支援すべきだ」と主張している。

 

(原文)

バングラデシュ:

https://www.thedailystar.net/opinion/editorial/news/new-dawn-syria-3772141

パキスタン:

https://www.dawn.com/news/1879479/geopolitical-games

インドネシア:

https://www.thejakartapost.com/opinion/2024/12/12/mission-to-syria.html

 

 

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