米国の国外援助凍結を東南アジアはどう報じたか
USAIDの閉鎖方針に対する各国の反応を社説から読む

  • 2025/3/13

 トランプ米大統領は1月、同国政府の国外援助を90日間停止して見直すという大統領令に署名。これに伴い、国務省の傘下にある米国国際開発庁(USAID)の閉鎖方針が示された。その後、3月10日にはルビオ国務長官が「6週間にわたる見直しの結果、83%の事業を正式にやめる」とSNSに投稿している。USAIDは1961年に設立され、世界60カ国以上に拠点を持ち、人道支援や開発援助などに取り組んできているため、世界各地で影響が懸念されている。こうしたアメリカ・トランプ政権の方針に対して、援助の現場ではどんな声があがっているのか。1月末から2月中旬に掲載された東南アジアの3カ国の地元紙を読む。

USAIDの職員と共に立つマーク・ワーナー上院議員(2025年2月5日撮影) (c) Senator Mark Warner /wikimediacommons

医療、労働、教育の統合を提言するタイ

 タイの英字紙バンコクポストは、2月16日付で「難民は深まる危機に直面している」と題する社説を掲載した。

 社説は、USAIDの資金援助が停止され、タイ国内に滞在する8万人以上の難民が、医療ケアなどの面で取り残される事態となった、としている。難民のほとんどは、隣国ミャンマーから戦闘を逃れてきた人々であり、タイ国内9カ所の難民キャンプでは診療所が閉鎖され、医療品が底をついているという。社説は、「この30年間、タイの難民キャンプはアメリカの国際支援に頼ってきた。資金停止によりほとんどの病院が運営を停止せざるを得ない」としている。タイ政府は、人道的対応をすることを決定しているが、全面的な対応にはほど遠い。

 ただ、社説はここから疑問を投げかける。「確かにこれは危機的状況だが、はたしてタイは30年にわたる危機に対し、不確かな外国からの支援に頼り続けるべきなのだろうか」と。つまり、援助を得ることなく、自立した難民対策をする方策はないのか、という問いだ。

 その答えの一つとして、社説は、「難民の医療とタイの医療制度を統合すること」を挙げる。さらに、労働年齢にある難民に就労を許可すること、子どもたちに教育を提供することを挙げる。「医療、労働、教育という生活の基本的な側面で難民をタイ社会に取り込んでいこう。そうすれば、外国の援助に頼らず、難民もまた、タイ社会に貢献する人たちとしてタイの人たちと共存できるだろう」という発想だ。

 「彼らの教育に投資することは慈善行為ではない。それは将来の社会・経済危機を防ぐことにつながる。彼らがこの国にとどまるのであれば、行き場のない失われた世代とならないように、社会に貢献できる手段を与えるべきである」と、社説は訴える。

インドネシアは「影響力行使の”お得”な道具」の削減に懐疑的

 インドネシアの英字紙ジャカルタポストは、1月31日付の社説で「アメリカを再び弱体化させる」という社説を掲載した。

 社説は、「海外援助を止めることはアメリカの世界的な地位を下げてしまう可能性が高く、トランプ政権が掲げる“アメリカを再び偉大に”という考え方に反する」と指摘。「海外援助は、軍事支援に比べて効果的かつ安価な手段だ」として、「そんな”お得“な影響力行使の道具を自ら手放すのは誤っている」と述べている。

 社説によると、アメリカの海外援助は、GDP国内総生産の0.22%に過ぎない。このわずかな金額が、アメリカの世界的な影響力を拡大するのに役立ってきたのだという事実を鑑みると、「海外援助を削減することは、米国を再び強くするための手段としては間違っている」と主張する。東南アジアの盟主国らしい物言いだと言えよう。

アメリカの事支援を確信するフィリピン

 タイやインドネシアと少し違う立場にあるのが、フィリピンだ。

 フィリピンは、南シナ海で中国と領有権争いをしており、その対立は日本をも巻き込んで地域の安全保障に影響を与える深刻な状態になっている。アメリカにとってフィリピンは、中国の海洋進出の最前線でもある。それゆえに社説には楽観的な考え方が漂う。フィリピン外務省は、「フィリピンは中国と対立してアメリカの防波堤になっているのだから、軍事支援は間違いない」と信じている。社説も「そんなに楽観視してはいけない」と注意喚起しながらも、「外務省の楽観的な見方は事実に基づいている可能性がある」としている。

 ただ、フィリピンは軍事支援以外に、経済開発、保健、教育、職業訓練などさまざまな援助資金もアメリカから得ている。その額は2023年だけで1億9820万ドル、USAIDが設立された1961年以降の累積で言うと50億ドル以上に上るという。

 したがって、こうした援助が凍結となれば、楽観的ばかりではいられない。社説がその埋め合わせとして挙げたのは日本だ。デイリーインクワイアラー紙は1月30日付の社説で「長期的に見れば、米国からの援助が減少する可能性は、フィリピンにとって信頼のおける他の同盟国、特に日本との関係を深めることによって相殺されるはずだ」と述べている。

 

(原文)

タイ:

https://www.bangkokpost.com/opinion/opinion/2962038/refugees-face-deepening-crisis

インドネシア:

https://www.thejakartapost.com/opinion/2025/01/31/making-america-weak-again.html

フィリピン:

https://opinion.inquirer.net/180430/coping-with-the-us-aid-freeze

 

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