米軍のアジアシフトで沸騰する太平洋地域
先鋭化する米中対立と岐路に立つ安全保障枠組み

  • 2022/6/30

緊張緩和のカギ握る日本

 こうした動きの背景には、中国の野望に対する米国の警戒心を高まりがある。中国は台湾を武力で統一するとともに、太平洋島嶼国との間で安全保障枠組みを構築して軍事進出することで、アジアおよび西太平洋から米軍のプレゼンスを排除することを狙っている。経済と地縁政治と安全保障を一体化した一帯一路戦略を通じて南太平洋島嶼国における政治に浸透しつつある中国は、ソロモン諸島との間でまんまと安全協定を結び、解放軍海軍をソロモン諸島に駐留させる根拠を獲得した。この勢いにのって、5月末には、南太平洋島嶼国10カ国とFTAや警務、安全保障に関する包括的協力枠組み合意への調印を目論んだものの、これは南太平洋島嶼国が米中対立に巻き込まれて分断されることを懸念したミクロネシア連邦やフィジーの抵抗を受けて、いったん棚上げとなっている。

 しかし、中国は諦めておらず、7月中旬にフィジーで開催される予定の太平洋島諸島フォーラム(PIF)の最終日に、太平洋島嶼国と中国の外相会談を開催するよう要請している。フィジーのバイニマラマ首相は、「時期が不適切」と否定的な見解を示しているものの、秋の党大会までに包括的協力枠組み合意の調印にこぎつけようと、中国がごり押ししてくる可能性は十分にある。

ソロモン諸島のソガバレ首相 © w:en:Presidential Office Building, Taiwan / wikimedia

 ここで私の個人的見解を言えば、南太平洋を舞台にした米中の影響力拡大競争においてカギを握っているのは、ほかならぬ日本であることを自覚する必要がある。

 PBPで唯一、非英語国家の日本がメンバーに入っていることも、リムパックで日本が今回初めて準空母打撃軍を参加させていることも、今年5月にQUADサミットが東京で開かれて、違法漁業などを監視する「海洋状況把握のためのインド太平洋パートナーシップ」(IPMDA)が打ち出されたことも、日本の働きかけに対する期待の表れだと言える。

 中国と国交を結ぶ太平洋島嶼国の中には、米豪英、あるいはフランスなど、旧宗主国の傲慢さに反感を抱く政治家がいるのは事実だ。ソロモン諸島のソガバレ首相が急速に親中化を強めているのも、まさにこれが原因だという指摘もある。その一方で、日本に対しては、まだこのような反感が少なく、むしろ漁業という産業を育成したことへの好感の方が高い。また、日本が第二次世界大戦後、一度も戦闘を行ったことがない平和国家であることも知れ渡っている。太平洋島嶼国は、地域が米中対立に巻き込まれて戦場になることを強く懸念している。現地の価値観を共有しながら開かれた自由な民主主義を共有することで、そうした懸念を軽減していくことができるのは、やはり日本なのではないか。

 きたる参院選では、経済社会福祉といった身近な問題だけでなく、外交や防衛テーマについても、ぜひ吟味してほしい。特に、南太平洋島嶼国への関与は日本自身の安全保障にもつながる問題であり、十年後、二十年後、国際社会が再構築された後の日本の国際的地位にも関わるテーマなのだから。

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