データ植民地主義で脅かされる難民の尊厳
援助を効率化する認証情報で固定化される差別や偏見
- 2022/2/10
抗議の声を上げたロヒンギャ
圧倒的な権力の差から沈黙を強いられてきた難民たちだが、抗議の声を上げ始めたグループもある。バングラデシュに逃れたロヒンギャの人々の一部が2018年、UNHCRと会談し、データの使途や難民身分証明書の中に、彼らのアイデンティティ定義である「ロヒンギャ」の名が明記されるまで生体データ収集を止めるよう要求したのだ。
ロヒンギャの人々は、 「自分たちの個体データが、迫害者であるミャンマー当局に引き渡されることは絶対にあってはならない」と宣言した。実際にはデータの採取が止められることはなく、最悪の事態がすでに起きていたわけだが、それでも、立場上、強いことが言えない難民たちがデータの適正な扱いを要求した事実は特筆に値する。
また、難民を助けるための生体データ利用が、彼らの弱者としての地位を固定化し、援助機関側に服従する者(低リスク)とそうでない者(高リスク)を分断させ、「アウトサイダー」「潜在的なテロ犯罪者」を作り出してしまうという弊害についても、少しずつではあるものの欧米で議論され始めている。
とはいえ、国連や援助機関、各国政府が難民データの共有にあたり相互に結託する中で、冒頭で紹介したような難民の生体データ流出や悪用は、将来的に減少するどころか、ますます増えてゆくだろう。難民支援のコスト効率や能率性が重視され続ける限り、また、欧米諸国が有色人種の難民を人種差別的な偏見を持って「受け入れる」限り、真の意味での「支援」は実現しないと思われる。