アメリカの「ならず者化」で進む西側諸国の中国シフト
親米対中強硬派の姿勢を明確にした日本に問われる覚悟
- 2026/2/24
中国の習近平政権が、欧州連合(EU)諸国やカナダ、イギリスなど、アメリカの同盟国家の取り込みを加速させている。EU諸国や英語を母語とするアングロフォン国家など、古くからアメリカと同盟を結んでいた国々が、トランプ政権の「ならず者化」を機にアメリカと距離を取り始めているのをチャンスととらえ、中国が急接近を図っているのだ。その一方で、日本では2月8日に行われた選挙で親米対中強硬派の姿勢を明確にしている高市自民が圧勝した。これが今後の国際社会の再構築の行方に少なからぬ影響を与えるとの予測が出ている。
EUとアングロフォン諸国の首脳が相次いで訪中
まず、この数カ月間のEU諸国と中国外交の動きを振り返ってみよう。
2025年11月、スペイン国王のフェリペ6世が18年ぶりに中国を訪問し、習近平国家主席と北京で会談。経済・技術協力の強化で合意した。
その後、12月3〜5日にはフランスのマクロン大統領が国賓として中国を訪問。大統領に就任して4回目の訪中で、格別の歓迎を受けた。これに応え、マクロン大統領も地政学的な安定と経済のバランス調整、持続的な環境保全などを呼びかけた。
年が明けて今年1月4〜8日には、アイルランドのマーティン首相が14年ぶりに中国を訪問。5日に習近平国家主席と会談し、経済貿易や人工知能(AI)、医薬品などの分野で協力関係の深化に合意した。さらに、1月25~28日にかけて、フィンランドのオルポ首相も中国を公式訪問し、多極化秩序の促進について協議。中国は北極圏への進出に意欲を示した。ドイツのメルツ首相も、メルケル前首相以来、初めての大規模な経済代表団とともに、2月24~27日まで中国を訪問している。
一方、アングロフォン国家については、1月16日にカナダのカーニー首相が訪中し、習近平国家主席と会談。カナダがアメリカに追随する形で中国製EVや鉄鋼に課していた追加関税と、中国がカナダ製キャノーラ油や油粕などに対して課していた報復関税を双方が引き下げ、新たなパートナーシップを宣言した。これによって、カナダが2018年12月にアメリカの要請に応じて中国のICT・スマートデバイスプロバイダー、ファーウェイのCFOを逮捕して以来、悪化していた中国とカナダの関係は劇的に改善。カーニー首相は「アメリカとの緊密な経済・安全保障上の関係は終わった」と明言し、アメリカ依存からの脱却と、中国へのシフトを宣言した。
続く1月28~31日には、イギリスのスターマー首相が8年ぶりに中国を訪問した。これに先立ち、スターマー政権は、ロンドンシティに隣接する王立造幣局跡地に欧州最大規模の中国大使館を建設する計画を承認している。このメガ中国大使館については、地下に設計されている200以上の秘密の小部屋が、シティの地下に張り巡らされている光ファイバーケーブルから情報を盗み取ることを目的としたものではないかとか、イギリスに亡命しているウイグル人や香港民主活動家を秘密裏に拘束し、収容する施設になるのではないかといった懸念が多々、指摘されてきた。そのため、アメリカ政府やイギリスの保守派議員、地元市民から強い反対が起こり、3年もの間、承認が延期されていたにも関わらず、それを押し切る形でスターマー大統領はこの計画の承認に踏み切った。同氏訪中は、メイ政権以来の英中黄金時代の再来とも言われている。
米中新冷戦構造の先鋭化で選択を迫られる世界
米中新冷戦構造が先鋭化することを前提に、中国とアメリカのどちらに寄るのか、世界中が決断を迫られているなか、アメリカの古い同盟国だったEU諸国やイギリス、カナダは、上述の通りアメリカと相次いで距離を取り、中国に急接近している。この背景にあるのは、いうまでもなくトランプ版モンロー主義に対する不信感だ。トランプ政権は、同盟国にも容赦なく追加関税を迫り、グリーンランド割譲をはじめ傲慢な要請を続けている。
中国人民大学国際関係学部の金燦栄教授は、YouTube番組「両岸図卓派」に出演し、「アメリカが徐々に“ならず者超大国”へと変貌していることを受けて、多くの理性的国家が中国との関係を発展させる重要性を認識しつつある」と語ったが、これは一面的な事実に過ぎない。中国はこの状況を、西側社会を分断する好機だと見ているのだ。
この点については、パキスタンの政治アナリスト、ナウィード・アマン・カーン氏が「中国は欧州でアメリカに取って代わることができるか」と題して2月7日付のカナダ・デイリーダイナミクスニュースに寄稿した解説に詳しい。同氏は「アメリカは70年以上にわたり欧州の政治・安全保障・経済構造を形作る中核的な外部勢力であったと同時に、集団防衛の礎となるNATOの創設に見られるリーダーシップにより欧州を保護し、世界秩序の認識を定義付けてきた」と指摘。そのうえで「今日の欧州は、経済成長の鈍化や脱工業化、人口減少、ウクライナ戦争以来続くエネルギー安全保障上の不安、防衛費の増大などの危機に直面している」と述べ、「この地域に対するアメリカの関与が不確実になっていることから、中国との間で日増しに緊密性が高まっている」との見方を示す。
また、欧州やアングロフォン諸国が中国に傾斜している理由について、同氏は「中国の外交政策は、公然と相手国に干渉しない点でアメリカと異なる」と指摘。「軍事的な介入や政権交代への大々的な関与は避け、“一帯一路”構想に見られるように貿易協定やインフラ融資、技術協力、開発プロジェクトなどの経済的な手段を通じてプレゼンスを発揮する。地政学的な紛争に疲弊した欧州やアングロフォン諸国にとって、こうした経済優先のアプローチは非常に魅力的だ」と述べる。
そのうえで同氏は、「北京は、世界におけるワシントンの独占的な影響力を弱体化させ、アメリカの古い同盟国に対して威圧ではなく連携を通じて権力関係を再構築しつつある。アメリカが欧州の安全保障上の柱であることに変わりはないが、中国は経済的には確実に対抗勢力になりつつあり、再均衡が進んでいる…(後略)…」と述べ、中国が今後すぐにアメリカに取って代わることはないにせよ、国際社会の再均衡は中国主導で進むだろう、との見解を示した。
高市氏率いる自民の圧勝を中国が警戒する理由
このように、欧州諸国をはじめ西半球勢が中国の影響力に続々となびくなか、アメリカにとってアジア最大の同盟国である日本は、中国依存から脱却し、アメリカに急接近するという選択肢をとった。高市早苗首相率いる自民党の圧勝に終わった今回の選挙結果は、そういう意味だ。
これを踏まえ、中国の少なからぬ専門家たちは、高市政権が今後、野党の牽制を受けることなく憲法改正や非核三原則の見直し、スパイ防止法の制定を進め、長期政権化すると予想して強い危機感を抱いている。
その一人、中国の海南大学一帯一路研究院シニアフェローの雷倩氏は、前述のYouTube番組「両岸図卓派」に出演し、「高市首相は、トランプ大統領が掲げる“力による平和”の意味を明らかに理解していた。これはアメリカがNATOに対して用いたのと同じ言葉であり、日本がこれまで以上に多くの軍事的責任を担うことを黙認し、奨励するものだ」との見方を示した。そのうえで、「アメリカがアジアに配備する最高クラスの戦略兵器はすべて日本に集中している」と述べ、「かつてアメリカが日本に定めさせた平和憲法ですら改正の対象となり得るのであれば、日本の専守防衛の制約は緩和され、将来的に日本は特定の状況下でアメリカからアジア地域の副管理者と見なされ、西太平洋の秩序維持のために協力させられる可能性がある」と続ける。
さらに、「日本とアメリカの軍事協力は、軍事産業からエネルギー、科学技術投資までカバーし、従来の純粋な軍事同盟関係を超える」と指摘。「アメリカでは近年、海軍や商船の建造能力が不足しているが、日本の軍事産業は長年にわたり制約を受けてきたにも関わらず、依然として強力な重工業基盤を保持しており、今後、アメリカの軍事産業に組み込まれ、製造拠点の一つとして活用される可能性がある」「日米は、軍事、軍需産業、武器などの分野で協力関係を強化するともに、経済的な連携も深め、安全保障と産業が絡み合った複合的なシステムを形成していくだろう」と予測する。
雷倩氏は、「たとえアメリカが日本を副管理者扱いしても、日本の戦略的な自立にはつながらない」としているが、日本の戦後レジームからの脱却は確実に加速するだろうと見ている。つまり、中国が国際秩序の枠組みを再構築し、再均衡を図るうえで最大の妨害者となるのは日本だと危惧しているのだ。

ミュンヘン安全保障会議の合間にオーストリアのベアテ・マインル=ライジンガー外相と会談した中国の王毅外相(2026年2月13日撮影)© Bundesministerium für europäische und internationale Angelegenheiten /wikimediacommons
事実、中国の王毅外相は2月14日、ミュンヘン安全保障会議の席上で「日本のリーダーは台湾問題について誤った発言をした。これは、台湾を植民地支配しようという日本の野心がいまだ消えておらず、軍国主義の魂を復活させようとしていることの表れだ」と、激しい言葉で日本をののしった。この発言は、中国の悲願である台湾統一にとって最大の妨害者がアメリカではなく日本だと習近平政権が認識していることを示している。
「三度おいしい北京ダック」からの脱却なるか
日本はかつて、中国官僚に「三度おいしい北京ダック(“皮、身、骨をすべて味わえる”の意)」と揶揄されていた。実際、領土問題を持ち出せば中国人民の愛国心が持ち上がり、歴史認識を持ち出せば共産党の正統性を宣伝でき、少し態度を軟化させてすり寄れば気前よく経済支援を行う日本は、中国にとって文字通り「カモ」だった。しかも、領海や領空を少々侵犯しても、領海内にミサイルを着弾させても、戦闘機にレーダー照射しても、遺憾の意を表明するだけで報復措置をしてこない。何をしても甚大な国際問題に発展するリスクはなく、中国の内政問題のガス抜きのために安心して挑発できた。
しかし、昨年、高市首相が登場し、今回の選挙で圧勝を収めたことによって状況は一変した。中国は日本の台頭を本気で脅威に感じ、米中冷戦の行方のカギを握るのは日本だと考え始めている。であるなら、日本はこの期に及んで中国との関係を改善することに期待をかけるより、中国から今後受けるであろう軍事的、外交的、経済的な圧力や揺さぶりに備えることを考える必要がある。選挙に圧勝した高揚などすぐ冷めよう。高市政権の困難はまさにこれからであり、それを選択した有権者も、当然、覚悟を問われる。だが、中国の恫喝に耐え、東半球の安全保障の枠組みを再構築する主導的な役割を握ることができれば、確かに本当の意味での「JAPAN IS BACK」がかなうかもしれない。
(ふくしま・かおり)1967年、奈良市生まれ。大阪大学文学部卒業後、産経新聞大阪本社入社。上海復旦大学での語学留学を経て、香港支局長、中国総局(北京)総局員で中華圏取材に従事。2009年に退職し、フリージャーナリストとして中華圏取材を継続している。主な近著に『習近平「独裁新時代」崩壊のカウントダウン』(かや書房)、『なぜ中国は台湾を併合できないのか』(PHP研究所)、『新型コロナ、香港、台湾、世界は習近平を許さない』(ワニブックス)、『コロナ大戦争でついに自滅する習近平』(徳間書店)など。メルマガ「福島香織の中国趣聞」(https://foomii.com/00146)

















