「災害は平和を導く非凡な力」ミャンマー大地震に期待できるか
深刻化する一方の被災地の苦しみ
- 2025/5/16
3月28日にミャンマーを襲った大地震は、クーデター後の混乱で苦しむ地域に、さらに甚大な被害を及ぼした。国連による4月22日付の報告では、3,800人の生命が奪われ、少なくとも240万人が緊急人道支援を必要としている。被災地のなかには、必要な支援物資さえ届いてない地域も多いといわれ、被害の全容はいまだ明らかになっていない。また、ミャンマーを支配する軍は、このような状況下でも空爆を続けていると伝えられている。
アチェ地震を機に和平合意が実現したインドネシア
4月8日付のインドネシアの英字紙ジャカルタポストの社説は、「この大きな自然災害によって、内戦状態にあるミャンマーの政治状況が改善される可能性があるのではないか」との議論を展開した。
社説は「2004年12月26日にインドネシアを襲った地震と津波を受けて、アチェで長期にわたり続いていた紛争が終結したように、今回の自然災害がミャンマーの戦争を終結させる触媒となる可能性はあるだろうか?」と問いかけたうえで、インドネシアの経験について次のように振り返る。
「アチェ地震と津波は、記録上、最大の自然災害の一つであった。この未曾有の災害を受けて、自由アチェ運動(GAM)とインドネシア政府の和平交渉が加速し、2005年8月15日にはヘルシンキで歴史的な合意が結ばれた。あれから約20年が経過した現在も、この和平合意は健在であり、持続可能なものとして定着しつつある」
今回、ミャンマーが大地震に見舞われた後、ミャンマー軍のミン・アウン・フライン最高司令官は、国際的な援助を求める異例の呼びかけをした。社説は、「軍は、これまでたびたび重大な自然災害が起きても、外国の援助を拒否してきた。だが、今回、人道支援団体が現地に入って活動することを認めたことで、ミャンマーの状況はより広く国外に伝えられ、国際社会から軍に対する圧力が高まる可能性がある」と指摘。こうした圧力は、「すべての当事者が参加する、広範な政治対話の道」を開く可能性がある、と主張した。
「甚大な自然災害によって平和の道が開かれるのは、残念なことではあるものの、被災の混乱は、それだけ紛争の行方を変え得る非凡な力を有するのだ」。社説はこう訴え、今回の被災を転機としてミャンマー国内で続いている戦いを終わらせるよう、と強く訴えた。
被災した建物の修理に175円 タイ政府の補償額に高まる批判
一方、震源地から遠く離れているにもかかわらず、建築中のビルの倒壊などで多くの死傷者を出したタイ・バンコク。タイの英字紙バンコクポストは、4月23日付の社説で「災害補償の在り方を再考せよ」と主張した。
社説は、今回の地震を受けてタイ政府が被害を受けた建物などに補償を行う方針を打ち出したことを伝え、「この政策は、当初、貧困層が再起するための前向きな措置として歓迎された」と述べる。しかし、被害額の見積もりがあまりにも低く、実質的には何の助けにもならないことから、多くの市民から苦情や批判の声があがっているという。
社説によれば、タイ政府は、住宅一戸あたり、最大で4万9500バーツ(約21万円)の補償額を設定しているという。しかし、実際には、被害の査定をするバンコク都庁職員は、一戸あたり数百バーツの提示しかしていないという。極端な場合は、ひび割れの修理費用を41バーツ(約175円)と見積もり、「書類のコピー代にもならない」と強い反発を浴びている。
社説は、「税金を無駄使いせよと言っているのではない。しかし、補償のためのガイドラインや、それに基づく査定は、正当かつ合理的なものでなければならない」と、指摘している。
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インドネシア紙が呼びかけた「被災を機に国内の争いの終結を」という訴えは、ミャンマー軍が空爆を継続しているという現状、残念ながら実現に至っていない。ミャンマー国民は、内戦と被災という二重の苦しみに今も耐えている。また、タイの社説は、地震に不慣れとはいえ、被災者への補償や支援があまりに不十分である実態を伝えた。今回の地震をめぐる報道は日本国内でははやくも減ってしまったが、被災地の人々の苦しみは、ますます深刻化している。
(原文)
インドネシア:
https://www.thejakartapost.com/opinion/2025/04/08/myanmar-quakes-call.html
タイ:
https://www.bangkokpost.com/opinion/opinion/3009212/disaster-relief-needs-rethink