イラン攻撃の影響 東南アジア諸国はどう見るか
浮かび上がる国境を越えた「人流」のつながり

  • 2026/4/6

 アメリカとイスラエルは2月28日、イランに対して大規模な武力作戦を開始しました。首都テヘランなどを空爆し、イランの最高指導者だったハメネイ師やその家族らを殺害。対するイラン側は、イスラエルや中東全域におよぶ反撃を続けています。また、イランは石油輸送の要衝であるホルムズ海峡を事実上封鎖しており、世界各地に影響が広がっています。

 今回の攻撃とその影響を東南アジア諸国はどのように見ているのか、まず東南アジア各国の英字紙の社説から紹介します。共通するのは、攻撃に正当性があるかといった戦争そのものについての論ではなく、まずは危険な地域にいる自国民への対応を求める声です。就労や留学など、世界が国境を越える「人流」でつながっていることを、改めて思い知らされます。

アメリカとイスラエルによるイランへの攻撃を受け、イランから退避したインドネシアの人々をジャカルタ郊外にあるスカルノ・ハッタ国際空港で出迎えたスギオノ外相。(2026年3月10日撮影)(c) ロイター / アフロ

インドネシア紙は5万8000人の自国民の保護を訴え

 インドネシアの英字紙ジャカルタ・ポストは、3月5日付の社説「保護する責任」で、この問題を論じた。

 社説によれば、中東各地には、仕事や留学のために51万9,000人以上のインドネシア国民が居住しているという。このうち23人を3月5日までに避難させることができたが、社説は「中東地域が長期化する紛争の瀬戸際に立たされているなか、今回避難できたこのわずかな人々は、巨大な人道的危機の氷山の一角に過ぎない」と指摘した。さらに、イラン攻撃が始まったのはラマダン(イスラム教の断食月)の最中だったため、聖地であるメッカとメディナには5万8,000人以上のインドネシア人が訪問中で、そのまま現地に取り残されているという。

 社説はインドネシア政府に対し、迅速な救出措置を求める。「これは単なるリスク評価の問題ではない。海外で危険にさらされている自国民の安全を守ることは憲法で定められた国家の責任だ」と社説は主張する。

フィリピン紙は家庭や産業への影響を危惧

 インドネシアと同様に多くの国民が中東に滞在しているのが、フィリピンだ。フィリピンの英字紙デイリーインクワイアラーは、3月17日付の社説で、この問題をとりあげた。

 社説によると、中東には200万人以上のフィリピン人海外労働者が暮らしているという。彼らが故郷に送ったお金は2025年には約65億ドルに上り、海外送金の総額の18%を占めたとされている。外貨獲得の重要な源泉であるこの送金が影響を受ければ、フィリピン経済にも深刻な打撃を与えることになる。

 同紙は、今回の事態を受けて海外就労者の安全が脅かされていることや、原油価格の高騰、輸出入の物流コストの上昇などへの影響を指摘し、「中東危機は単なる遠く離れた紛争ではなく、緊張が続けばフィリピンの家庭や産業に影響を及ぼしかねない」との危機感をあらわにしている。

エネルギーの再構築を訴えるタイ紙

 3月6日付で社説「戦争がエネルギー政策を試す」を掲載したのは、タイの英字紙バンコク・ポストだ。

 社説は、「中東で続く戦争は、タイ新政権を含む各国の政府のエネルギー政策にとって、新たな試金石となっている」と指摘する。社説によると、タイの石油備蓄は4月末までしかもたず、仮に他の輸入元に切り替えたとしても価格が安くなることはないため、国民生活への影響は必至だという。

 危機に直面した今、社説はタイ政府がこれまでエネルギー危機にどう対応してきたのか振り返る。まず、アラブ産油国が1970年代に石油の禁輸措置をとった際について、「当時の政府は、自国のエネルギー政策を再構築し、独自の製油所を建設するとともに、タイ石油公社を設立した」と、振り返る。その後、1980年代にイラン・イラク戦争が起きた際は、自動車の使用を制限したり、エアコンの設定温度の調整を国民に呼びかけたりして本格的な省エネキャンペーンを展開したという。

 そのうえで社説は、「現在のアヌティン政権は、石油基金や予算を源泉とする補助金という“古い解決策”を繰り返しているにすぎない」と批判。「その資金を経済競争力の向上や開発プロジェクトに充てるべきだ、と主張した。

 「中東情勢の混乱は、政府にとってエネルギー政策を再構築し、石油やガスといった地政学的に敏感な商品に対する脆弱性を軽減する好機だ」と社説は述べ、タイ政府に対して「補助金を提供する以上のことができることを示す時だ」と、強く求めている。

 

(原文)

インドネシア:

https://www.thejakartapost.com/opinion/2026/03/05/responsibility-to-protect.html?utm_medium=channel_editorial

フィリピン:

https://opinion.inquirer.net/190170/contingencies-for-middle-east-war

タイ:

https://www.bangkokpost.com/opinion/opinion/3210784/war-tests-energy-policy

 

 

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