藤元明緒監督が『白骨街道 ACT1』で継承したい歴史とは
日本兵の遺骨を収集するミャンマーの人々から見たインパール作戦を描く新作短編映画が公開
- 2022/4/22
時代を漂う未来への手紙
「ミャンマーの人々から見た第二次世界大戦を撮りたい」という、長年抱えてきた思いがようやく動き始めたチン州への旅から2年後の2021年2月1日、ミャンマーでクーデターが発生した。1年2カ月以上が経過した今もなお、軍による市民の弾圧は続いており、人権団体AAPPの統計によれば、逮捕・拘束された人は4月20日までに1万2731人に上り、1600人以上が殺害された。
『僕の帰る場所』の制作後にミャンマー人女性と結婚して息子も授かり、ミャンマーとの縁が一層深まった藤元監督も、昨年2月以降、大切な第二の祖国の惨状に苦しみ続けている。「声を上げることができる人が、上げ続けることが重要」だと考える監督は、「声の上げ方は人それぞれ。僕は映画を通じて表現していきたい」と話す。
その一環として、ミャンマーが新年を迎えた4月16日から1週間、全国18の映画館でイベント『映画を観て、ミャンマーを知る Vol.2』が開かれている。今回の『白骨街道ACT1』と『僕の帰る場所』を2本立てで上映し、日本各地で同時多発的にミャンマーに思いを寄せてもらおうと企画した。映画館には募金箱を設置し、上映による配給収益の一部と併せ、現地の市民を支援する活動に寄付する。
そんな藤元監督は、自分たちの映画は「未来への手紙」だと話す。現在、起きていることを取り上げ、感動と感情を込めて制作した作品のメッセージが、今、同じ時代を生きている人々だけでなく、いつか後世の人にも伝わるように時代を漂ってほしいと願っているのだ。
もちろん、長い時間の間に、制作時には意図していなかった解釈や見方をされる可能性もある。その例として、監督は「僕の帰る場所」のワンシーンを挙げる。難民申請が却下されたことが伝えられた日の夜、「ミャンマーに帰りたい」と訴える妻に対し、夫が「まだ信用できない」と言う場面だ。自然なやり取りを撮るために演じる2人にアドリブで会話してもらっていた中で、「今のミャンマーに帰国するのはまだ危険」という意味で父親役の男性から出た発言だった。「撮影していた当時は、特段、気に留めていなかったその言葉の意味を、今、改めて考えさせられている」
藤元監督は、これからも、抑圧されている人や、居場所がない人をテーマに、「海に流れ込む水のように」長い時間かけて未来へと漂い続け、歴史を継承していく映画を作り続ける。