「女性に対する暴力撤廃の国際デー」によせて
南アジアで2分に1件の強姦事件 危機に直面する女性たちを救うために
- 2025/1/7
例年、11月25日は「女性に対する暴力撤廃の国際デー」と定められている。家庭内暴力などジェンダーに基づく暴力(ジェンダーベースドバイオレンス:GBV)や性的虐待など、女性たちを苦しめる暴力の撤廃を目指すものだ。また、この日から12月10日の世界人権デーまでを「性差別による暴力廃絶活動の16日間」として、積極的に啓発活動などに取り組む国際キャンペーンが行われている。
女性に対する暴力は、あらゆる国や社会で起き、常態化しているが、特に途上国の厳しい環境の下で暮らす女性たちはぜい弱だ。この日によせてアジア各紙に掲載された社説を紹介する。
女性に敵対する国家、パキスタン
パキスタンの英字紙ドーンは、2024年11月25日付の社説でこの話題を取り上げた。記事のタイトルは、「女性に敵対する国家」。パキスタン国内での厳しい状況が伝わる。
社説は、パキスタン人権省の発表を引用する。「過去3年間で、女性に対する暴力の被害届は6万3,000件に上った。別の報告書によれば、2分に1件の割合で強姦事件が発生している。だが、残念ながらほとんどのケースは明るみに出ない。こうしたGBV事件の未処理件数は8割以上に上る。また、有罪判決率はわずか3%だという」
社説は、「紛争や社会的、経済的な苦境にある時にGBVの事件が急増するのは事実」だとしたうえで、「この忌まわしい状況の責任は、保護システムを構築したり、家父長的言説に対する措置を講じたりしてこなかった政府にある」と断じる。
パキスタンでは、さまざまな法律の制定により女性の権利を守る方策が示されているものの、その多くは形骸化しているという。「パキスタンは、女性にとって最も危険な国の一つとなっている。この事実を認識し、女性議員の代表を増やすために団結し、女性の教育と法律の厳格な適用を訴える必要がある」と、社説は結んでいる。
農村部に届かない国際キャンペーン
ネパールの英字紙カトマンドゥ・ポストは2024年11月29日付で「16日間では不十分」と題した社説を掲載した。
社説は、16日間にわたる女性への暴力撲滅キャンペーン期間中に、女性や少女たちを脅かす暴力について振り返り、そしてキャンペーンの効果を分析している。
国連によれば、世界では3人に1人の女性が、生涯に一度は身体的または性的暴力を経験しているという。社説は、ネパールの状況について、次のように説明する。「2022年の人口保健調査によると、15歳から49歳までのネパール人女性の3人に1人が何らかの暴力を経験している。テクノロジーの進歩に伴い、女性はオンライン空間でのいやがらせや同意のない性的な画像の送信といった恐怖を経験している」
その一方で、16日間の国際キャンペーンについては「女性が直面する暴力に立ち向かう大きな可能性を秘めている」と期待を示したうえで、「政府やNGOによるキャンペーンは主に都市部で展開され、草の根には届いていない」と指摘する。
「農村部の無数のネパール人女性にとって、この16日間は癒やしや変化をもたらすものではない。ネパールには、GBVに対する数多くの法的枠組みがあるが、形骸化している。児童婚、セクシャルハラスメント、家庭内暴力、女性殺害の4分野についての世界銀行の指標では、ネパールは190カ国中71位だ」
また、2021年7月からの1年で報告された約2万2,000件の女性に対する暴力のうち、実に8割が家庭内暴力に関連していたことを指摘し、「家庭は女性にとって最も危険な場所だ」と述べる。
「さまざまな形の暴力によって体と心に傷を負った女性にとって、崇高な言葉がどれほど高らかに宣言されようとも、何の救いにもならない」と、社説はキャンペーンのあり方を厳しく問う。さらに、約6割の女性が支援を求めることができないという事実を指摘し、「この16日間だけでなく、年間を通じてGBVに対する支援を行うべきだ。女性に対しては、暴力に抵抗する能力を身に付けるなど、実践的な行動を支援する必要がある。同時に、男性の意識を高め、GBVを永続させる構造を変革しなくてはならない」と主張している。
(原文)
パキスタン:https://www.dawn.com/news/1874679/anti-women-state
ネパール:https://kathmandupost.com/editorial/2024/11/28/16-days-not-enough