新興国で氾濫するフェイクニュースと闘うために
偽情報のまん延を許しているのは、政治か、メディアか、国民か
- 2024/10/26
意図的に虚偽の情報を拡散させる、フェイクニュース。詐欺行為や選挙にも利用されるなど、近年、世界中で大きな問題となっている。ソーシャルメディア上に氾濫するフェイクニュースは、いまや正しい情報や、質の高い評論を追い出しかねない勢いだ。インターネットの普及によって誰もが情報発信できるようになった今、どのようにその「内容」の正しさを確認し、質を担保すればよいのだろうか。
特に、テレビや新聞など伝統的なメディアを凌駕する勢いでソーシャルメディアが発達を遂げている新興国では、情報の質を維持するために各国が頭を悩ませている。
国民の82%がオンラインでニュースを読む国
フィリピンの英字紙インクワイアラーは9月5日付で、「フェイクニュースとの闘い」と題した社説を掲載した。
「ソーシャルメディアに人々が熱狂し、フェイクニュースやデマがまん延するフィリピンのような国では、選挙が近づくにつれてフェイクニュースへの懸念が一層高まる」と社説は書き出す。来年5月に中間選挙を控えているフィリピンでは、フェイクニュースへの懸念に対応するため、政府選挙管理委員会や報道機関、グーグルなど60余りの組織が集まり「フェイクニュース反対の誓い」を発表したほどだという。
社説によると、2022年9月の世論調査では「フィリピン人10人のうち9人が、フェイクニュースのまん延を問題視している」という。また、別の世論調査でも同様の結果が出ているというのだから、国民の危機感は強いのだろう。実際、フィリピン人の多くが「フェイクニュースの見分け方は難しい」と考えており、「ソーシャルメディアやオンラインニュースは自社のコンテンツを規制できていないという批判も出ている」と、社説は述べる。
だが一方、そうした危機感を持ちながらも、人々は日々のニュースの情報源として、オンラインニュースを利用している。ロイター通信の調査によると、フィリピン人の82%が日々のニュースの情報源として「オンラインニュース」を、次いで「ソーシャルメディア」(63%)を挙げた。テレビは46%、新聞などの活字メディアは13%と、従来メディアとの差は歴然倒的だ。
社説はさらに、「ディープフェイクや加工された動画など、人工知能(AI)を活用した偽情報の拡散も問題になっている」と指摘する。さらに、マルコス大統領が深刻な病状に陥ったというフェイクニュースが拡散された最近の事例を挙げ、「フェイクニュースが政情にも影響を与えかねないことから、選挙キャンペーンでAI技術を使用することを禁じることも検討されている」と述べる。
フェイクニュースやデマの問題への対応は、「表現の自由」との兼ね合いもあり、確かに一筋縄ではいかない。社説は「この闘いの行方は、必要な情報をどこから入手するかを決める市民の手に委ねられている。真実を求める人々は、自ら啓発されることを選択してほしい」と、読者に呼びかけている。
信頼を失墜するメディア
パキスタンの英字紙ドーンは9月28日付で「世界ニュースの日」を祝う社説を掲載した。
社説は「私たちは今、かつてない時代に生きている。戦争、政治対立、気候変動など、私たちの日常生活にも、社会の激変ぶりが表れるようになった」と述べる。
「このような不確実な時代において、メディアは責任ある役割を果たそうと努力している。しかし、ジャーナリズムに対する信頼が失墜していることは否定できない」と、社説は言う。さらに、そうした状況を改善するには、「ジャーナリストが自らの姿をよりオープンに人々に示すべきなのかもしれない」と述べる。社説は、「メディアの慣行を透明化し、高い倫理基準を維持し、間違いがあれば躊躇なく正し、読者に対する説明責任を果たさなくてはならない」と主張し、まずは自らの身を正すことがフェイクニュース排除への道であることを強調した。
最後に社説は、「事実から目を背けがちな人々にも、情報を届ける努力」が必要だと説く。インターネット上であらゆる情報を利用できるようになり、選択肢が増えたことで「個人の好みや偏見が正当化されるような場所」を見つけることが容易になった。しかし、「客観的な真実は、そうした安らぎをほとんど提供しない」と社説は言う。これは報道の本質を突いた言葉で、ニュースの送り手にも、受け手にも「真実とは何か」を問いかけている。
(原文)
フィリピン:
https://opinion.inquirer.net/176591/fighting-fake-news-in-the-media
パキスタン:
https://www.dawn.com/news/1861650/world-news-day