スリランカで「節度ある」大統領選が実施 暴力からの脱却
大接戦を制した左派の野党党首 経済回復が大きな課題

  • 2024/10/16

 スリランカで9月22日、大統領選の結果が発表された。勝利したのは、野党の左派勢力「国民の力(NPP)」を率いるアヌラ・クマラ・ディサナヤカ氏(55)だ。9月23日には首都コロンボで宣誓式が行われ、ディサナヤカ氏は大統領に就任した。

 スリランカは2022年に深刻な経済危機に陥り、長期にわたり国民の抗議行動が続いた。当時のラジャパクサ大統領は国外に脱出したため、ウィクラマシンハ首相が大統領代行に就き、その後、大統領を務めていた。今回の選挙は、この2022年の反政府運動以降、初の大統領選挙となった。

 また、今回の大統領選は異例の大接戦となり、「再集計」によって当選者が決定した。スリランカでは得票率が50%を超えなければ当選できないが、1回目の集計ではディサナヤカ氏が42.31%、次点のプレマダーサ氏は32.76%と、50%を超えた候補者はいなかった。有権者は第3希望まで候補者名を記入できるため、上位2人の候補に絞って2回目の集計を実施した結果、ディサナヤカ氏の当選が決まった。

大統領選当日、コロンボの投票所で、投票を終えた証拠である指のインクを掲げるアヌラ・クマラ・ディサナヤカ氏 (2024年9月21日撮影)(c) ロイター/アフロ

国民の成熟度が上がったか 暴力なき選挙

 スリランカの英字紙デイリーニューズは9月25日付で、「過去からの歓迎すべき脱却」と題した社説を掲載した。

 社説は、今回の大統領選について「さまざまな点で注目に値する」と述べ、選挙戦が優れていた点を挙げた。具体的には、選挙期間中に大きな事件が起きなかったこと、激しいプロパガンダが展開されなかったこと、また主要候補者の間で侮辱や非難、ののしり合いがなく、節度ある行動が見られたことを挙げた。

 なかでも「最も注目すべき特徴」として社説が指摘したのは、「これまでこの国では選挙後に暴力行為が起こることが常態化していたが、今回はまったく見られなかった」ことだ。社説によれば、これまでの選挙では、勝った側が負けた側の支持者を腹いせに攻撃し、ひどい場合は放火することさえあったという。

 社説は「挑発的または扇動的な演説を行わなかった候補者たちに最大の賛辞が送られるべきだ」と候補者たちをねぎらったうえで、「宗教指導者たちが発信したメッセージも効力を発揮した」と評価する。

 さらに社説は、こうしたプラスの変化について、「政治家の私利私欲のために利用されることを許さない、という国民の成熟した姿勢を示している」と指摘。その一方で「誰が勝っても自分たちに直接のメリットはないと大局的な見方をする国民が増えた」と分析した。

 社説は「この選挙で示された例が、今後、この国で行われるすべての選挙の標準になることを願う。各政党のリーダーたちには、再び暴力的な選挙に陥ることを防ぐ責任がある」と、強調した。

ポピュリズムを控えて経済回復を

 隣国インドの英字紙ヒンドゥスタン・タイムズも、9月23日付の社説でスリランカの大統領選挙を「スリランカの新たな始まり」だと評価した。

 社説は、ディサナヤカ氏の勝利について、「2022年の抗議行動に見られた反体制感情の精神に支えられたもの」だと指摘したうえで、2022年以降の政治的な動乱は「今回の結果をもって完結した」と述べた。

 その一方で社説は、ディサナヤカ新大統領がこれから直面する課題として、経済の回復を挙げる。スリランカはいまだ経済危機から完全には立ち直っておらず、経済回復のためには、29億ドル(約4318億円)もの国際通貨基金(IMF)からの救済に依存している現状を改善する必要がある。その一方で、国民は減税や福祉の拡充を求めている。社説は「これらを両立させるためには、ポピュリズム路線をやわらげ、現実的な政策をとる必要がある」と指摘した。

 

 スリランカは、長い混乱期を乗り越え、新たな大統領のもとで明るい時代を築いていくことができるだろうか。まずは11月14日に実施される議会選挙と、その後の動きに注目したい。

 

(原文)

スリランカ:

https://www.dailynews.lk/2024/09/25/editorial/636742/a-welcome-departure-from-the-past/

インド:

https://www.hindustantimes.com/editorials/the-left-turn-in-sri-lanka-101727105641396.html

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