【タイ・ミャンマー国境の不都合な真実③】人権侵害を伝えるAAPP、不屈の闘い
民主主義と人権を、次世代のために守り抜け

  • 2022/12/22

囚人生活のリアル

 AAPPの展示室のドアには、「Burma Behind Bars(鉄格子の向こうのミャンマー)」と書かれている。その言葉の通り、展示室では、民主化運動に関する写真パネルだけでなく、刑務所内の食事や、強制労働、拷問を記録した写真など、政治犯たちのリアルな暮らしも展示されている。

 目を引くのは、監房の実寸大レプリカだ。Kさんが収容されていたインセイン刑務所の監房と同じ、2.4m四方の部屋で、中には薄いゴザが1枚。隅には洗面器がポツンと置かれている。

 「私は6年間、これと同じ部屋に4人で暮らしました。この洗面器はトイレ。便もここでしなければなりません」

右奥の黒い洗面器が「トイレ」。扉の外には水甕があり、Kさんたちは鉄格子の間から腕を伸ばし、コップに水を汲んで飲んでいたそうだ(筆者撮影)

 監房の中に展示されているのは、「Prisoner’s position(囚人の体位)」と呼ばれる、拷問の写真だ。例えば、両足の間に鉄の棒を渡し、足を開いた状態で固定されたまま1カ月生活させられる。あるいは、中腰や片足立ちなどのきつい姿勢で、数時間動くなと言われ、動いてしまうと暴力を受ける。

 「軍は、刑務所や尋問センターでこうした拷問を続けています。それでも口を割らずに殺された民主活動家もいます」とKさん。「第二次大戦中に日本の憲兵隊がやったことと同じですね」という言葉に、思わず俯く。

 ここにある写真の多くは、釈放された政治犯たちが拷問の体位を再現したものだが、中には、2021年のクーデター後に拘束された活動家が拷問を受けている写真もある。なぜこんな写真が流出したのか、と首を傾げていると、Kさんは苦笑しながら、こう説明した。

 「捕まったらこんな目にあうぞ、と脅すために、軍が情報をわざとリークして、SNSで拡散するのです。それが、自分たちが捕虜を虐待しているという、動かぬ証拠になることにも気付かずに」

監房内に展示された、拷問の体位(筆者撮影)

 Kさんもこうした拷問を受けたことがあるのか、と尋ねると、Kさんは首を振り、表情を曇らせた。

 「私が政治犯として刑務所で暮らした1990年代、囚人たちはただ収容され、無為に過ごすだけでした。しかし今は、汚物を運んだり、囚人の体位をとらされたりと、強制労働や拷問を強いられています。囚人たちの人権は、ますます蔑ろにされています」

日本の若者たちへのメッセージ

 最後にKさんは、日本の若者に伝えてほしい、とこんなメッセージを託してくれた。

 「あなたたちは、生まれた時から人権や民主主義を手にしていました。それはあなたたちにとって、コカコーラのように、ありふれたものでしょう。でも、なぜそれが当たり前にそこにあるのか、知っていますか?…それは、あなたより前の世代がそれを獲得するために、必死で努力してきたからなのです。今度はあなたたちの番です。今、手にしているものを、次世代のために、必ず守り抜いてください」

 

固定ページ:
1

2

関連記事

ランキング

  1. (c) 米屋こうじ バングラデシュの首都ダッカ郊外の街で迷い込んだ市場の風景。明るいライトで照…
  2. ミャンマーで国軍が与党・国民民主同盟(NLD)を率いるアウンサンスーチー氏らを拘束し、「軍が国家の全…
  3.  ミャンマーで2021年2月にクーデターが発生して丸3年が経過しました。今も全土で数多くの戦闘が行わ…
  4.  2024年1月13日に行われた台湾総統選では、与党民進党の頼清徳候補(現副総統)が得票率40%で当…
  5.  台湾で2024年1月13日に総統選挙が行われ、親米派である蔡英文路線の継承を掲げる頼清徳氏(民進党…

ピックアップ記事

  1.  軍事クーデター後のミャンマーで撮影されたドキュメンタリー映画『夜明けへの道』が、4月27日より全国…
  2. ミャンマーで国軍が与党・国民民主同盟(NLD)を率いるアウンサンスーチー氏らを拘束し、「軍が国家の全…
  3. ミャンマーで国軍が与党・国民民主同盟(NLD)を率いるアウンサンスーチー氏らを拘束し、「軍が国家の全…
ページ上部へ戻る