コロナ禍と強制立ち退きに揺れる米国社会
史上最も人種的に偏った格差の発生をいかに回避するか
- 2020/12/31
家主側にも理解できる事情
こう見てくると、立ち退きを迫る家主たちは、皆、非情な悪者に思われる。しかし、彼らにも理解できる事情はある。現在、米国で住居を賃貸する家主たちの多くは、零細な投資家であることが多い。全米4820万件の賃貸物件のうち、41%の物件の所有者はそうした投資家だ。
米シンクタンクのアーバン研究所によれば、このような零細家主が所有している賃貸物件は2~4件程度で、所得額は年間6万7000ドルと、決して多くはない。彼らの多くは黒人やヒスパニック系であり、国策とはいえ、9カ月近くにわたり家賃収入が途絶えることは、彼らにとっても死活問題である。彼ら自身が家賃や住宅ローンを払えず、立ち退きに直面するケースすら報告されている。
カリフォルニア州アパート家主協会のデブラ・カールトン副会長は、「もし、立ち退き猶予制度が1月以降も延長されるのであれば、それを裏打ちする法律には家主への金銭的補償が盛り込まれなければならない」と強調する。
米議会による救済法案の待望論
アーバン研究所の住宅政策担当のメアリー・カニンガム副所長は、「そもそも今回の問題は、政府が命じたロックダウン政策によって失業や収入減が相次いだことにより引き起こされたものである。連邦政府は、家主に金銭的な援助を行うことによって、庶民に手の届く住宅の供給を維持することができる」と論じている。
同氏はさらに、「CDCが強制立ち退き猶予・禁止令を発令したことで、数百万もの人々が新型コロナウイルスの感染拡大のさなかの立ち退きという状況をまぬがれている。次は、米議会が家主を救済する番だ。これにより、借家人と家主の両方が救われる」と、述べている。
住宅危機は、その他の貧困危機とも関連している。米国勢調査局が2020年11月に実施した調査によると、2600万人の米国人が、日々の食料に困窮している。感染対策としての貧困層救済は、まさに待ったなしの状況なのだ。トランプ政権の立ち退き猶予措置をさらに発展させ、借家人や零細家主を危機から救い出すことが、バイデン次期大統領と米議会に強く求められている。