ベトナム映画の今昔 変わる作風と映画館事情
プロパガンダ、娯楽コンテンツから世相を映す鏡へ
- 2019/9/10
海外プロダクションとの連携 映画館のイメージ刷新
翻って現在は、ベトナム国内映画の躍進がめざましい。欧米や、韓国を筆頭とするアジア諸外国のプロダクションと提携し、映像そのものの質も編集技術も向上し、海外で制作された作品と遜色ない作品が多数、生まれているのだ。さらに近年は、韓国映画(「怪しい彼女」、「サニー」)や日本映画(「パパと娘の7日間」)のリメイク作品も一般的になり、好評を博している。さらに、2017年に公開された映画「キングコング: 髑髏島の巨神」では、国内屈指の景勝地がロケ場所として提供されるなど、映画を娯楽としてのみならず、観光PRの手段として活用する動きが生まれているのも注目したい。
映画館については、韓国資本のCGVがベトナム全土に展開しており、日本と変わらない清潔で快適なシネコンが各地にオープンしている。配給のシステムも発達を遂げているようで、ハリウッドの大作は、日本より公開が早いものもある。ちなみに9月初旬現在、すでに日本映画の「天気の子」が公開されている。ほとんどのベトナム映画には英語の字幕が、そして日本映画はベトナム語の吹き替えが付いているので、当地で鑑賞してみるのもオススメだ。
ただし、何の縛りがあるのか分からないが、そこそこヒットしていても、封切り後、2週間が過ぎると、上映館の数が激減する。それだけ新作が列をなして待っているということなのかもしれないが、タイミングを逃して見逃した作品も多く、残念だ。
世相を映す鏡に注目
さて、冒頭の「Thua me con di」が公開されるより前に、トランスジェンダーの男性のドキュメンタリーが昨年、映画館で上映された。こちらは、男性が自撮りをした映像をベースに編集された作品で、彼の苦悩や家族との葛藤などがありのまま赤裸々に描かれている。彼がバンコクで性別適合手術を受けて女性の体を手に入れるまで、数年にわたって撮影された見応えのあるものだった。こと性的マイノリティーに限ったことではないが、社会で起きている現象についてスクリーンを通して見ることは、特に外国人にとってとても貴重な経験だ。
ニュースや情報がネットにあふれる時代、ベトナムを知るツールとしてこれからも機能してほしいし、私自身も定点観測を続けていきたいと思う。
筆者注:Thua me con di の予告編はこちら
→ https://www.youtube.com/watch?v=cwY4rGhZ_Og