トランプ氏銃撃に見るアメリカの政治的暴力 アジア紙の視点
銃社会で常態化する暴力の連鎖に歯止めはかかるのか
- 2024/8/7
アメリカのトランプ前大統領が7月13日、東部ペンシルベニア州で演説中に銃撃される事件が起きました。直後に耳から血を流しながら星条旗を背景に拳を突き上げた姿は、衝撃とともに世界中に拡散されました。アジアの国々は、このトランプ氏暗殺未遂事件をどのように見たのでしょうか。インドネシア、インド、そしてネパールの社説を紹介します。
暴力によって生まれるのは、団結か、分断か
インドネシアの英字紙ジャカルタ・ポストは、7月19日付で「アメリカの悪夢」と題した社説を掲載した。
「アメリカンドリームは、いまや悪夢に変わった」と、社説は冒頭で断じた。社説によれば、アメリカンドリームとは「努力と決意と自発性があれば、誰もが平等に成功するチャンスがある」という考え方だ。しかし、「トランプ氏が大統領だった期間、民主主義は根底から揺るがされ、このアメリカンドリームへの信頼も崩れ始めている」と社説は指摘する。
また、今回の銃撃事件については、「トランプ氏の暗殺未遂は、政治的暴力が根深いアメリカでは、ある程度は当然だった」と見る。そのうえで、「1981年に起きたロナルド・レーガン大統領の暗殺未遂事件はアメリカ国民を団結させる機会となった」と述べる一方、「「今日の分断されたアメリカでは、今回の事件が団結の機会とはならないだろう」と分析する。そこから伺えるのは、アメリカという国への失望感だ。
「長らく民主主義の象徴であったアメリカは、その輝きを徐々に失いつつある。各国は、アメリカの衰退によって生じた穴を埋める方法を、独自で見つけなければならない」
大統領銃撃により銃規制は進むか
インドの英字メディア、タイムズオブインディアも、7月14日付の社説でこの問題を取り上げた。
社説は、近年、アメリカ国内で政治的暴力が増加していることを指摘。2022年にナンシー・ペロシ下院議長の夫が襲撃された事件を挙げ、「アメリカでは、政治的暴力が新たな常態となりつつある」と指摘した。
また、「今回の事件により、銃を持つ権利を擁護してきた共和党が銃規制についての姿勢を見直す可能性があるのでは」と指摘する専門家もいるが、社説は「アメリカではこれまでに4人の大統領が銃で暗殺されたが、今回はトランプが勝者となった」と指摘。「今回の事件は、銃に対する考え方に何の影響も与えないだろう。さらなる暴力への欲求を刺激しただけだ」と、厳しい見方を示している。
アメリカ 銃へのあくなき執着
ネパールの英字紙カトマンドゥポストも、7月17日付の社説でアメリカの銃問題を取り上げた。
社説は、「アメリカに銃文化があるからこそ、トランプ氏の暗殺未遂が起きた。そしてトランプ氏自身が、そうした銃文化の最も強い擁護者の一人である」と指摘。一方で、「銃撃されてもなお、トランプ氏は銃を持つ権利を保護し続け、アメリカの銃文化は変わらないだろう」と予測する。
「4人の大統領が暗殺され、トランプ氏の暗殺未遂事件が起きたにもかかわらず、アメリカは銃に執着している。銃による暴力という難問を前にすると、アメリカはすぐに『記憶喪失』という安らぎに頼る。そして、パレスチナ人を一掃しようとするイスラエルに武器を供給するという非道徳な行いをしたバイデン大統領は、今、言葉を失っている。アメリカは本気で銃文化を一掃するために、今こそ一致団結するべきだ」
(原文)
インドネシア:
https://www.thejakartapost.com/opinion/2024/07/19/an-american-nightmare.html
インド:
https://timesofindia.indiatimes.com/blogs/toi-editorials/trumps-moment/
ネパール:
https://kathmandupost.com/editorial/2024/07/17/still-trumping-gun-rights