かるたで広がれ、ミャンマーへの共感
未来を諦めない若者たちが開く世界
- 2022/1/16
日本の学びを変える挑戦
それでも、かるたプロジェクトは急速にさまざまな人々を巻き込み、共感の輪を広げつつある。ヤンゴン日本人学校で中学生向けに職業講話を企画している水口知香さんは、クーデター後の授業で、野中さんが外部講師に「自分たちは何ができるか」と尋ねていたのをよく覚えている。「まずこの国をよく知ってほしい、と話す講師の言葉を咀嚼するように、何度もうなずいていました」
現地で伝統手織り布を使ったバッグやポーチの制作と販売も手掛けている水口さんは、「ミャンマーに縁のある一人として、かるたをきっかけに日本とミャンマーの人々がつながってほしい」との思いから、自身のブランドを通じてクラウドファンディングの返礼品にも協力している。
昨年11月からは、日本の学びを変える活動にも取り組んでいる。学校や公民館を回り、さまざまなミャンマー関係者の講演も交えつつ、かるたを通じてミャンマーを伝え、世界の問題を考えてもらうためのイベントを開催している。
クーデター後の弾圧の実態を疑似体験してもらうために新しいコンテンツも導入した。2021年の流行語大賞にノミネートされた「親ガチャ」になぞらえた「クーデターガチャ」だ。SNSなどの写真を活用して「あなたは医者。怪我人を助けようとして銃を突きつけられた」「外で遊んでいた弟が、撃たれて死んだ」といった言葉を添えたカードを作り、参加者に引いてもらうことで、生まれる国や時代を選べず極限状況に置かれる戦争を「自分ごと」として感じてもらう内容だ。「かるたの読み手を育成する“かるたキーパー”研修も行い、すそ野を広げていきたい」と、野中さんは意気込む。今後、ブックレットをミャンマー語に翻訳し、現地で絵札を印刷・ラミネート加工してチャリティ販売するほか、日本を伝えるミャンマー語版かるたを制作することも構想中だ。
早々に目標額を達成したクラウドファンディングへの支援は、今も増え続けている。最終日は、クーデターの発生から丸1年となる2月1日。現地の情勢はいまだ見通せず、国際社会も打開策を打ち出せないまま事態の長期化が懸念されるが、「ミャンマーの若者たちと日本で暮らす自分たちは何も変わらない」という、若者らしいまっすぐな思いと共感から生まれた挑戦に、救いと希望を見出して集う人々の思いが重なって、大きなうねりが生まれつつある。その先に、両国の若者同士が交流する明るい未来が広がっていることを信じたい。絶望的な暗黒の中で、運命を嘆かず、5年後、10年後を見据えて挑戦する彼らの問いかけに答え、一人一人がそれぞれの立場からできることを考えながら、一歩ずつでも歩み続けたい。