武装勢力兵士の切ない愛、カチン語で歌う
カチンの人気歌手・俳優のゾードエカウンさん

  • 2019/8/18

インターネットの波を乗り切れるか

 しかし、この「インディーズ市場」に支えられた状況はこの3年ほどで一変した。CDやDVDが明らかに売れなくなったというのだ。その主原因は、携帯電話の普及による若者のライフスタイルの変化とみられる。ミャンマーでは軍事政権時代、通信容量の不足から携帯電話のSIMカードの発行が抑えられ、手に入れるには10万円以上かかるような時代がつづいていた。それが2011年に誕生したテインセイン政権が規制緩和を打ち出し、外資の参入を認めるなどしたため、通信環境が劇的に改善した。現在ではSIMカードは100円ちょっとで道端で売られている。これに加え、4G(第4世代)のLTE回線が2017年ごろから普及したため、ミャンマーでは携帯電話で無料動画を楽しむ若者が増えることとなった。その結果、CDやDVDの需要が携帯電話に奪われていると考えられている。また、2011年に再開した内戦も、売り上げに大きな影を落としているという。

CDショップでは多くのカチン語コンテンツが販売されている(筆者撮影)

 危機感を抱いたゾードエカウンさんは、カチン語ポップカルチャーの生き残りをかけ、次の一手を繰り出した。フェイスブックページ 「カチンセレブリティ」を立ち上げたのだ。「インターネットではコンテンツがタダで流れてしまう。それでは制作者がいい作品を作っても資金が回収できない」と話す。カチンセレブリティは、ミャンマーで人気のフェイスブックコンテンツ「ミャンマーセレブリティ」を参考にしたもので、カチンの芸能界のニュースや新作映画など芸能情報をカチン語とビルマ語で紹介している。開始して数か月ですでに1万4,000人以上のフォロワーを獲得した。まだ収益を上げるビジネスモデルには辿りついていないが、こうした試行錯誤を続ける中で、地元制作者に利益が還元される仕組みを作りたいのだという。

 そこまでしてどうして、4,000万人以上と市場が大きいビルマ語ではなく、約100万人の話者しかいないカチン語にこだわるのか。「だって僕はカチン人だから。僕のファンもそれを求めているんだよ」。彼の答えは明確だった。

 

 

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