米大統領選があぶり出した分断の本質
人々を投票に駆り立てた「排除への恐れ」
- 2020/11/26
他者を排除して得た権益
分断社会が厳然とした事実であるからこそ、当確が出た後、バイデン氏は次期大統領として「われわれは皆、米国人であって、敵同士ではない」と訴えた。今回の選挙で投票した有権者たちが特に警戒し、恐れていたのは、「敵」である相手グループから社会的に排除されることであり、彼らはおそらく明確に言語化し意識していたわけではなかったにせよ、互いに投票という間接的な手段で、社会から排除されないよう政治力を行使しようとしたのではないだろうか。たとえば、敗れたとはいえ、トランプ氏にも7400万もの票が入った。それは、トランプ氏に共鳴する者を言論や社会から排除しようとする動きに対する「NO」の意思表示だったと解釈できるからだ。
このようなグループ間対立は、階級間対立の様相をも帯び始めている。従来の「労働者の味方の民主党」対「資本家の利益のために働く共和党」という枠を超え、「排除する知識層エリート」対「排除される非エリート」、あるいは「言論空間をコントロールするエスタブリッシュメント」対「SNSなどで言論を規制される非エスタブリッシュメント」といった構造に変化し、対立が深化しつつある。
こう考えると、トランプ支持者の多くは、過去4年間の仕事に高評価を与えたというより、大統領が脅かされつつある自分たちの社会的権利を擁護してくれる砦であるとみなし、守護者としての「業績」に投票したのではないかと思われる。逆に、バイデン支持者の投票行動は「社会的排除を実行に移す特権を失い、復讐されるかもしれない恐怖」に動機づけられている可能性がある。主要メディアが少数に過ぎない過激化した極右勢力にあそこまでこだわり、こぞって恐怖心をかき立てたのがその証拠ではないか。
その意味で、米国民の団結を掲げるバイデン次期政権が直面する内政課題は、「社会的な排除を行おうとするグループにそうした行動をやめさせること」だと言えよう。しかし、他者を排除することによって自己の地位や権利を獲得した人々にそれをやめさせることは、既得権益を手放させるようなものであり、事実上、不可能に近い。米国の分断は、バイデン政権下でさらに進むと思われる。