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『月刊ドットワールドTV』#11 チュニジア大統領選挙と若者たちの政治観
「アラブの春」から15年 日本の20代が見た現地の今
- 2025/7/18
ドットワールドと「8bitNews」のコラボレーションによって2024年9月にスタートした新クロスメディア番組『月刊ドットワールドTV』が、11回目のライブ配信を行いました。今回は、ナビゲーターを務めるドットワールド編集長の玉懸光枝が、イギリス・エセクター大学アラブ中東研究所の修士課程を修了し、北アフリカのチュニジアにも留学経験がある桐畑杏香さんをゲストに迎え、8bitNewsの黒部睦さんとともに東京のスタジオから伝えました。
アラブ諸国の独裁政権が次々に倒れた民主化運動
11回目となる番組は、「チュニジア大統領選挙と若者たち 「アラブの春」は今」と題し、2025年7月16日の日本時間21時から8bitNews上で配信されました。
2010年から2012年にかけて20代の若者層を中心に自由を求める運動が急速に広がり、独裁政権が次々に倒されたアラブ諸国。一連の民主化運動は「アラブの春」と呼ばれ、世界的に大きな注目を集めましたが、その発端となったのがチュニジアでした。2010年12月、野菜売りの男性が警察に屋台を取り上げられ焼身自殺を図った事件を機に、失業率の高さや生活苦に直面していた若者たちに広がった同国の抗議運動は、国を象徴する花の名前をとって「ジャスミン革命」とも呼ばれるようになりました。
番組では、そんなチュニジアで2024年10月に実施された大統領選挙を現代の若者たちがどう見ていたかについて調査し、今年4月にドットワールドに「チュニジアの大統領選挙に見る「アラブの春」のその後」(2025年4月28日付)を寄稿した桐畑さんと、「アラブの春」の今を考えました。
桐畑さんが中東地域に関心を抱くようになったのは、マレーシアに留学していた15歳の時に出会ったイエメン人の同級生の存在が大きかったといいます。通学バスの隣に爆弾が落ちてきたり、親しくしていた人が目の前で撃たれたりと、彼女の15年間の経験が自分の想像をはるかに超えるものであったことに衝撃を受け、自分と異なる経験をしてきた人々の助けになりたいと考えるようになった桐畑さん。イギリス・エセクター大学のアラブ中東研究所でジェンダーについて研究するかたわら、2024年4月にはチュニジアに1カ月間、滞在してアラビア語を学びました。
受け継がれなかった「革命」のレガシー
「ジャスミン革命」や「アラブの春」の記憶がレガシー(遺産)として現在の社会にどう継承されているのか知ろうと、当初はホストファミリーや学校の先生など、現地で会う人々に対して「挨拶代わりに」自分から話題にしていたという桐畑さん。しかし、予想に反し、彼らの反応はことごとく「そんなこともあったね」という程度で、非常に驚いたといいます。「まるで日本人が歴史上の本能寺の変について話す時のような反応の薄さで、たかだか15年しか経っていないにも関わらず、彼らにとってはすでに過去の遠い出来事になっているのを感じた」と振り返りました。
桐畑さんが特に驚いたのが、「ジャスミン革命」を率いていた当時の若者たちや桐畑さんと同年代にあたる、今の20代が大統領選挙戦で見せた冷ややかさだったといいます。彼らは政治に対して強い関心を持ち、社会の不条理に鋭いまなざしを向け現政権の政策を批判的に分析しては、持論をとうとうと語っていたにも関わらず、今回の大統領選に対しては一様に冷ややかで、投票所に足を運ばない選択をしたそうです。「行っても意味がない」「Anyway,どうでもいいんだけどね」という彼らの言葉から、政治に対して関心があるにも関わらず、「どう行動してもどうせ何も変わらない」と諦めざるを得ない無力感と絶望が伝わってきたといいます。
さらに桐畑さんは、日本に戻ってから出会った30代半ばの女性が「アラブの春」のことを「あの運動のおかげで私たち女性は自由を得た」と話す隣で、彼女の親世代の男性が顔をしかめ、不服そうな様子だったエピソードを紹介し、世代間、あるいは男女間の認識の違いを感じたと語りました。そのうえで、そんな彼女も大統領選挙については「とても選挙とは呼べない、ひどいものだった」と話していたことを紹介しました。実際、今回の選挙では、現職のサイード氏が9割以上の得票を得て再選を果たしています、
「社会や政治に対するアクションを通じてwinを記録する」
番組ではこのほか、「社会を読み解く」の新着記事より、中国に詳しいジャーナリストの福島香織さんが執筆した「中国解放軍内で相次ぐ不可解な事件から読み解く権力闘争」(2025年6月23日付)を紹介。中国・習近平政権内で、幹部の失踪や不審死、行方不明が相次いでおり、権力が習氏個人に集中しつつある事実を紹介しました。
また、「報道を読む」からは、「インドとパキスタン アメリカの仲介で停戦合意するも対立収まらず」(2025年6月22日付)、「報道の自由を守れ!東南アジア、ジャーナリストたちの現状」(2025年6月26日付)、「オンラインカジノの合法化をめざすタイ 世論は反発」(2025年6月30日付)、「国益最優先のアメリカを見つめるアジアの視線」(2025年7月3日付)、「イスラエル・イラン紛争 停戦に懐疑的なアジア諸国の声」(2025年7月9日付)、「タイ・カンボジア国境での衝突 タイ現政権に深刻なダメージ」(2025年7月13日付)の記事も紹介しました。
さらに、「世界写真館」からは、写真家の柴田大輔さんが、独裁者を倒した1979年7月のニカラグア革命から40周年を祝う人々と、その革命を率いたオルテガ氏による独裁が進行する社会の矛盾を切り取った「革命40周年の夜」(2025年7月7日付)をはじめ、旅フォトグラファーの三田崇博氏がイランを訪れた際に出会った市場の花売りを撮影した「市場の花売り」(2025年6月28日付)、今年3月末に起きた大地震で大きな被害に皆割れたミャンマー・インレー湖で暮らす人々の姿を切り取った「漁師の日常」(2025年6月24日付)を紹介しました。
最後に桐畑さんは、チュニジアについて「政治的にも歴史的にも大きな改革を経験した国であるにも関わらず、現代の若者がその事実を“今とは関係ない”“今回の選挙に紐付けはできない”と見ており、レガシーとしてまったく受け継がれていないことがショックだった」と振り返ったうえで、「行動を起こすことが大事。誰かが声を上げないと社会は変わらないことを再認識した」「日本でも選挙に行く若者が増えており、政治家のメッセージに若者を意識したものが増えていると感じる」と話したうえで、「自分は今、25歳。これからもっともっと世界のリアルを見て学びたい」と、意気込みました。
また、桐畑さんより1歳年下で、この日のカメラワークを担当した8bitNewsの黒部さんは、「自分の周りには政治や社会に強い関心と知識がある人が集まっているが、桐畑さんの記事を読んで、関心があっても将来に希望を持てない現実が選挙に行かない理由になることに驚いた」と発言。「過去の運動の成功例を記録し、次世代に残す重要性を感じた。過去の成功例は、次の世代が行動を起こす際の希望になる。私もアーティビストとして行動するかたわら、小さなwinを記録や配信を通じて残していきたい」と話しました。
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2019年7月にスタートしたドットワールドは、この夏、創刊6周年を迎えました。8bitNewsとのクロスメディア番組「ドットワールドTV」の配信も、まもなく1年が経とうとしています。これまでのご愛読やご視聴に心からお礼申し上げます。
ドットワールドはこれからも世界の人々から見た世界の姿や彼らが大切にしているもの、各国の報道ぶりや現地の価値観を喜怒哀楽とともに伝えることで、多様な価値観を理解し、違いを受容し合える平和で寛容な一つの世界を築く一助となることを目指します。引き続きどうぞ宜しくお願いいたします。












