『月刊ドットワールドTV』#7 第二次トランプ政権とアメリカ社会のいま
就任から2カ月 次々と打ち出される政策と国民の「民意」は

  • 2025/3/20

 ドットワールドと「8bitNews」のコラボレーションによって2024年9月にスタートした新クロスメディア番組『月刊ドットワールドTV』が7回目のライブ配信を行いました。今回は、ナビゲーターを務めるドットワールド編集長の玉懸光枝が東京の8bitNewsのスタジオからアメリカ在住ジャーナリストの岩田太郎さんとオンラインでつなぎ、8bitNewsの構二葵さんとともに伝えました。

世界からの信頼に執着しない「むき出しのパワー」

 7回目となる番組は、「第二次トランプ政権の2カ月を振り返る 米国民の「民意」は」と題し、3月19日の日本時間19時から8bitNews上で配信されました。

 1月20日に二度めのアメリカ大統領に就任して丸2カ月が経ったトランプ氏の言動は、連日、世界の注目を集め、国際情勢にも大きな影響を与えています。これを受け、7回目のゲストトーク「ドットワールドCross」では、現地から発信を続けている岩田太郎さんをゲストに招き、トランプ大統領に対するアメリカ社会の見方について対談しました。ドットワールドTVは昨年10月にも岩田さんとつないで、大統領選挙直前の現地の様子について話を聞いています。2回目の登場となる今回は、岩田さんが選挙後にドットワールドに寄稿した3本の記事「若者の心をつかんだトランプ次期米大統領に課せられた課題」、「米国人とウクライナ人は「トランプ和平」に何を見ているのか」、そして「第二次トランプ米政権の発足で始まった超党派の協力」を踏まえつつ、トランプ政権が掲げる政策別に市民の反応を聞きました。

 岩田さんはまず、アメリカの選挙戦について、自分が支持する候補者の名前を書いた看板を自宅の庭に立てたり、幹線道路脇でプラカードを掲げたりする人々の様子や、候補者同士が互いを攻撃し合うテレビ広告やフェイクニュースの氾濫などを紹介しました。

 そのうえで、岩田さんが住むオレゴン州はカリフォルニアの北隣に位置し、ワシントン州と同様にリベラルで、民主党のハリス候補を推す雰囲気が強かったため、投開票日の翌日は人々がかなり意気消沈し、呆然としていたと振り返りました。

アメリカでは選挙期間中に支持する候補者の名前を書いた看板を自宅の庭に立てる人も多い(2024年10月、岩田さん撮影)

 続いて、出生地主義の見直しやトランプ関税など、過激な方針が次々と打ち出されていることについては、「トランプ氏は、自分が大統領になったらアメリカに不法入国した親たちの子どもに自動的に国籍を付与しないことや、関税をかけ製造業をアメリカに回帰させるという方針を選挙戦から打ち出していた」と振り返り、「アメリカ人の間に驚きはなかったのではないか」「第一次政権の言動も踏まえ、ある程度は予想されていた」と述べました。そのうえで「就任後2カ月の間にこれほどの勢いで新政策を繰り出し、アメリカのみならず世界を圧倒することになると予想していた人は少ないのではないか」と続けました。

 これに関連し、玉懸が「報道を読む」のコーナーから「米国が「パリ協定」離脱 気候災害の被害に苦しむアジア諸国の声」の記事を紹介。インドネシアの英字紙ジャカルタポストの社説に触れながら、気候変動対策をめぐる先進国と途上国の間の対立が埋まらないなか、アメリカの消極的な姿勢は他の国々に多大な影響を与えかねないと指摘すると、岩田さんも「アメリカ社会の中でも、方針が4年ごとに変わるのは良くないという共通の理解がある」と指摘。「これまでアメリカは、民主党と共和党で政権交代が起きても、極端な政策変更はせず諸外国との約束は守るという立場から、超大国の一つとして責任ある態度で振舞ってきたからこそ、信頼というソフトパワーを勝ち得てきた」と述べました。

 そのうえで岩田さんは「トランプ大統領は考えがまったく異なり、アメリカに対する世界からの信頼には執着していない」と指摘。「これまで“大人”としてふるまってきたアメリカは諸外国から都合よく利用されてきた被害者だと彼は考えている」「むしろ、世界の期待を裏切り、これまでアメリカ主導で築いてきた自由貿易や民主主義といった価値観に基づく世界秩序を変えてしまおうとしている兆しが見える」「トランプ大統領を孤立主義だと言う人もいるが、むしろむき出しのパワーを見せて引き続き外国に関与していこうとしている」と分析しました。

同時多発テロ直後の愛国主義に似た雰囲気

 また、トランプ大統領がウクライナとロシアの戦争終結に向けて、ウクライナ国内の鉱物資源を巡る協定締結を進めたり、ロシアに接近したりしていることについては、「休戦調停自体には大多数が賛成しているものの、他国の領土を奪取した侵略者であるロシアを非難することもなく取り引きしようとしていることには共和党内部でも否定的な意見が多い」と述べました。

 これに関連し、玉懸が再び「報道を読む」のコーナーから「ウクライナ戦争を巡る米ロの接近を南アジアはどう見るか」「トランプ米政権が目指すのは「新植民地主義」か「新外交秩序」か」、そして「「ガザ地区を引き取る」トランプ米大統領の発言に反発する南アジア」の記事を紹介しつつ、アジア諸国の見方を紹介。これを受けて、岩田さんは「ガザに関する発言は、現実的ではないとしてアメリカ国内でも批判的に報じられている」としたうえで、「パレスチナをはじめアラブ社会にとって不満も出ているが、トランプ政権はそれを力で押さえつけようとしている」「パレスチナに対する同情や支持を表明することは、すなわち反イスラエルのヘイトスピーチだとする風潮がある」と指摘。パレスチナ支持を表明したコロンビア大学の学生が永住権を取り消され、強制送還の対象となり裁判中であることにも言及しました。

 さらに、「最近の雰囲気は、2001年9月11日にアメリカで起きた同時多発テロの後に愛国的な雰囲気が広まり、アメリカ批判が許されなくなったり、アラブやパレスチナへの同情的なコメントがはばかられたりした時期を彷彿とさせるものあり、危機感を抱いている」という岩田さん自身が感じている印象も紹介しました。

USAIDの解体を巡る司法の判断は

 一方、トランプ大統領は1月、アメリカの対外援助を90日間停止し見直すという大統領令に署名し、国務省の傘下にある米国国際開発庁(USAID)の閉鎖方針を示しました。その後、3月10日にはルビオ国務長官が「6週間にわたる見直しの結果、83%の事業を正式にやめる」とSNSに投稿しています。

 この動きについて、岩田さんはメリーランド大学が2月初旬に発表した世論調査を引用しながら、回答者の75%がUSAIDの無駄や腐敗に対する懸念を表明したと紹介。さらに、メリーランド州の連邦地裁が18日、USAIDの閉鎖は憲法違反にあたるとの判断を示したことを紹介し、「今後、控訴審でもトランプ政権は敗訴すると見られるが、その後、保守派が支配する連邦最高裁判所の判断がどうなるかは分からない」と述べました。

 また、岩田さんは「これまでのアメリカの世論調査の結果を見ると、リベラルなバイアスがかかっている可能性も否定できない」としながらも、同じ調査で「USAIDを廃止すべき」だと答えた人が41%、「維持すべき」だと答えた人が58%であったことも紹介しました。

 そのうえで、「USAIDはアメリカ議会が1998年に新たに組織替えをしたため、廃止するならアメリカ議会が決める必要があるが、イーロン・マスク氏が率いる政府効率化局(DOGE)はそれを無視して廃止を決めた」と指摘した岩田さんは、「連邦最高裁判所でもトランプ政権が敗訴する可能性もある」と言及。「司法の判決が出るまでは、食糧や医療など人道支援に限定した形で援助が行われるだろう」との見方を示しました。

 これを受けて玉懸は、かつて世界一の援助大国となった日本でも1998年からODA予算の削減が始まり、2009年に実施された事業仕分けもあいまって削減傾向が続いていたものの、東日本大震災で世界から支援が寄せられたことによって改めて日本と世界の絆が認識され、予算が下げ止まったことを紹介。「無駄は見直されるべきだが、今回の突然の停止によって支援から放り出されているのは弱者であり、彼らの存在を抜きにした議論に胸が痛む」と述べると、岩田さんも「アメリカ国内にも途上国の苦境は伝わってきている」と指摘。「しかし今はあまりにも貧富の差が大きいため、トランプ大統領の言説が説得力を持ってしまう」と指摘しました。

 USAIDの解体については、「報道を読む」のコーナーから「米国の国外援助凍結を東南アジアはどう報じたか」の記事も紹介しました。

 番組の最後には、岩田さん、構さん、そして玉懸の3人が、対外支援は回り回って支援側にも意義があるものだというコミュニケーションを普段からしておく重要性や、アメリカで奪われつつある報道の自由などについて話し合いました。

         *

 2019年7月にスタートしたドットワールドは、昨夏、創刊5周年を迎えました。これまでのご愛読と応援に心から感謝いたします。節目のタイミングでご縁をいただきスタートした8bitNewsとのクロスメディア番組「ドットワールドTV」を通じて、一層多くの方々に記事をお届けできれば嬉しいです。ぜひご視聴ください。

 ドットワールドはこれからも世界の人々から見た世界の姿や彼らが大切にしているもの、各国の報道ぶりや現地の価値観を喜怒哀楽とともに伝えることで、多様な価値観を理解し、違いを受容し合える平和で寛容な一つの世界を築く一助となることを目指します。引き続きどうぞ宜しくお願いします。

 

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